夏も近づく八十八夜〜♪ 1年間丁寧に育てた新芽が摘み取られ、新茶が楽しめる季節がやってきます。茶の木から生まれた茶の葉は、いったいどのようにしてお茶になるのでしょう? お茶ができるまでの工程を知れば、もっとお茶がおいしくなるはず!
毎年4月下旬から5月になると、「茶摘み」が行なわれます。
1年間、真心込めて育てられた新芽を、人の手や摘採機を使って収穫するのです。
摘み取られた新芽は、すぐに製茶工場へ届けられ、おいしいお茶になるための加工が施されていきます。
摘みとった新芽は、蒸して、揉んで、乾燥させて……
お茶の原型「荒茶」ができるまで
最初の工程は「蒸し」。新芽は、摘み取られた瞬間から酸化が始まるので、いち早く蒸して酸化を止めます。生葉特有の青臭みを取り、葉を柔らかくする効果もあります。
蒸された新芽は、次に「揉み」の工程へ。
粗揉みの「粗揉(そじゅう)」、加熱せずに揉む「揉捻(じゅうねん)」、乾燥させながら揉む「中揉(ちゅうじゅう)」、形を整えながら揉む「精揉(せいじゅう)」と、4段階に分けて、丁寧に揉まれていきます。
異なる機械を使いながら、蒸し具合や水分の状態、揉み加減など、お茶に精通した職人が、おいしさを引き出す最高のタイミングを見極めます。
揉みが終わると、茶葉を「乾燥」させます。十分に乾燥させないと、保存状態が悪くなり、変色など品質劣化の原因になるので、ここでしっかりと水分を取り除きます。乾燥が終わると、お茶の原形となる「荒茶」のできあがり。
しかしお茶は、荒茶の状態では完成といえません。
ここからは、入札によって荒茶を仕入れた各茶問屋が茎、粉、葉に「選別」します。
お茶の風味を引き出す「火入れ」の妙
荒茶を仕上げ茶にする最終工程である「火入れ」。
お茶の工程説明などでよく目にいますが、一体どんな作業なのかご存知でしょうか?
火入れは、茶葉を加熱することで貯蔵に耐えるようにするとともに、「火香(ひか)」と呼ばれるお茶の芳香を向上させます。
製茶工程の中でも、お茶の個性を引き出す大切な工程で、加熱温度がわずか一度の違いで同じ茶葉でも風味が変わってしまうため、火入れの最中は一時も気が抜けません。
熱風で火入れする方法、加熱した鉄板上で炒る方法、熱源として遠赤外線を利用するなど、さまざまな方法で茶葉を加熱します。同じ茶葉でも加熱の温度や長さによって、さまざまな特長のお茶に変わるのです。
棚のような乾燥機の引き出しに茶葉を入れ、下から熱風を送る。ゆるやかに火が入るので、玉露など高級茶に向いている。
ドラムで茶葉を回しながら、ガス火で火入れをする。フライパンで熱するようなイメージ。しっかり火入れしたいときはドラム式を使う。
溝のようなレールの中を茶葉が通り、炭火のようにじっくり火入れする。無酸素状態で、火の強さを細やかに調整できる。
80〜120℃の熱風で火入れができる透気式乾燥機。一度に大量の茶葉に火入れができるので、大量生産に向いている。
火入れ機はいくつかありますが、中でも今ではあまり見かけなくなった古式伝統の「棚式乾燥機」は別格です。
いくつもある引き出しの中に少量ずつ薄く茶葉を入れ、下から熱風でじっくりと火入れする方法です。「むっくり火」と呼ばれるやわらかな火入れによって、茶葉の豊かな香りを引き出すことができます。一度にたくさんの量はできませんが、職人がつきっきりで仕上がりを確認できるので、高級茶である玉露やかぶせ茶の火入れには欠かせません。
ほかにも、大量の茶葉を火入れできる「透気式火入れ機」や、炭火のような火入れができる「遠赤外線火入れ機」、フライパンで熱するように火入れする「ドラム式」など火入れの方法はさまざま。職人は長年の経験に基づいて茶葉に合う火入れ機を選び、温度や時間を設定します。
お茶屋の腕の見せどころといわれる「火入れ」。お茶を楽しむ際、火入れが生み出す香りにも注目してみませんか?
さまざまなお茶をブレンドする「合組」をすれば、 おいしいお茶の完成!
茶葉を十分に乾燥させて、特有の風味を引き出したあと、銘柄ごとの味わいをつくるためお茶をブレンドする「合組」が行なわれます。
産地や品種、蒸し具合が異なるお茶をブレンドして、おいしい緑茶ができあがります。
普段飲んでいる一杯のお茶。茶の木から生まれたお茶の葉は、さまざまな工程を経て、人の手間暇をかけて、おいしいお茶になります。
新茶は不老長寿の縁起物ともいわれています。
できたてほやほやの今年の新茶を、ぜひ味わってみてください!
(写真・入交佐紀)
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取材・文=大村沙耶
おおむらさや●月刊『茶の間」編集部員。福岡県北九州市出身。学生時代は剣道に打ち込み、京都に住み始めてから茶道と着付けを習い始める。ミーハーだけど、伝統文化と自然を愛する超ポジティブ人間。