人の手の動きを忠実に再現! おいしいお茶づくりに不可欠な技とは?

今、茶産地は新茶づくりの真っ盛り!茶農家にとって、茶摘みに、そして製茶にと、一年で最も忙しい日々が続きます。そんな最盛期の茶処では製茶機械もフル稼働中です。おいしいお茶を生み出すために発展した技術の裏側をご紹介します!

お茶

元々は手作業でやっていた製茶工程が……

厳しい冬の寒さを越し、燦々(さんさん)と降り注ぐ初夏の日光を浴びて一斉に芽吹きだす新芽。広大な茶畑がまるで緑の絨毯を纏ったかのように、鮮やかな新緑一色に染まると、一年間待ち焦がれた新茶の季節の到来です。

新茶づくりの最盛期を迎えている茶産地の茶農家は、朝早くから夜遅くまで、休む間もなく茶摘みに製茶にと大忙し。一年で最も慌ただしい日々が続きます。それもそのはず、茶摘みは摘み取りが遅れると品質が格段に落ちるため、新芽の成長具合を見極め、もっともよい瞬間を見極めなければならないのです。

この茶摘みは、昔は新芽の一つひとつを丁寧に手摘みしていましたが、現在ではほとんどが摘採機という専用の機械による刈り取りが主流になっています。

そして、摘み取った新芽をお茶に仕上げていく工程も、同じように昔は手作業で行なわれていましたが、現在ではほぼ全て機械化されています。製茶機器が発明、普及していくにつれて、生産量が飛躍的に増加し、おかげで多くの人が安定した品質の緑茶を楽しめるようになります。私たちが毎日おいしい緑茶を楽しむ上で、製茶機器は非常に重要な役割を担っているのです。

しかし、製茶はほぼ機械化しているとはいえ、おいしいお茶をつくるためには、人が行なう手揉みに最大限近づける必要があります。そのために、機械を何種類も駆使して、何段階もの工程を経て、手の動きを再現することで、手揉みと遜色ない味わいを生み出しているのです。

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摘採機で新芽を摘み取っていく。
摘採機で新芽を摘み取っていく。
摘み取った大量の生葉を一時的に入れておく茶舟(ちゃぶね)と
呼ばれる通気性のある竹製の籠に入れる。
摘み取った大量の生葉を一時的に入れておく茶舟(ちゃぶね)と 呼ばれる通気性のある竹製の籠に入れる。

いくつもの工程を経て生まれるお茶

ここで私たちが日々飲んでいるお茶ができるまでを見ていきましょう。

茶畑で一年間手塩にかけて育てられたお茶の新芽は、手摘みや摘採機を使って収穫されていきます。摘み取った新芽は、新鮮さが命。休む間もなくすぐ近くの製茶工場へと運ばれ、その日のうちに加工されます。

生のお茶の葉は、摘んだその瞬間から酸化が始まるため、製茶工場へ運ばれると、いち早く蒸し上げられます。この工程を「蒸熱(じょうねつ)」と呼びます。蒸すことで酸化を止め、生葉特有の青臭みを取り、葉を柔らかくします。その後、粗揉みする「粗揉(そじゅう)」、加熱せずに揉む「揉捻(じゅうねん)」、乾燥させながら揉む「中揉(ちゅうじゅう)」、揉みながら形を整える「精揉(せいじゅう)」という4段階にも及ぶ揉みの工程を経て、乾燥させるとお茶の原型となる「荒茶」が完成します。

この荒茶から茎や粉を取り除き、仕上げの火入れを施して風味を引き出すと、新茶ができあがります。

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産地ごとに異なる茶葉。その性質を見極めて、設計に生かす

このように、おいしいお茶をつくる上で欠かすことのできない製茶機械。株式会社杉本製茶機械は、お茶づくりのニーズに合せて、さまざまな製茶機器の設計、販売を手がけています。

「うちの会社は、宇治田原や和束(わづか)、城陽、地元である滋賀県の朝宮をはじめ、遠いところでは九州の茶農家さんや茶問屋さんなどが主な顧客です。お客様の製茶機の導入に際して、製茶環境やニーズに合せて、最適な機器や設備を組合せています」

と話すのは、同社の4代目、杉本良樹さん。

産地ごとに茶葉の特性も異なり、またお茶農家さんがどんなお茶をつくりたいのか、それによって機器の設計など提案内容が異なってきます。特に重要な仕事は、全体の作業工程をコントロールする制御盤の製作です。扱う茶葉の種類などで、機械の回転数や風量、温度などをコントロールする制御盤のプログラミングは変わるのだそうです。

「たとえば最高級と言われる宇治茶は、茶葉に粘りがあって乾きにくいという性質があり、いかにすばやく乾かすかがポイントになります。味、香り、澄んだ水色など、どれをとっても茶葉の品質が非常に高く、どうやってその力を最大限に引き出す製茶工程を設計するかが、我々の腕の見せどころなんです」

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大正3年創業、100年を超える老舗企業の4代目を受け継ぐ杉本良樹さん。

機械のメンテナンスやオーバーホールも大切な仕事!

「この仕事は、機械を販売してハイ終わり、ではないんです」

杉本さんのもう一つ大事な仕事が機械のメンテナンスです。

お茶の葉は摘まれた瞬間から酸化が始まります。芳醇な旨みや爽やかな風味を生かすには、いかに早く製茶を行なうかがカギになります。茶摘みが行なわれる4〜6月頃は、各農家で機械がフル稼動する繁忙期で、少しでも不具合があって機械がストップしてしまうと、茶葉がどんどん酸化してしまい、せっかく育てた茶葉の新鮮な香りと味わいが変わってしまいます。

「場合によっては、せっかくの新茶が売り物にならないこともあるので、それだけは絶対に避けなければいけない。我が社では、1分でも迅速に対応してメンテナンスを行なうことをモットーにしています。私自身、茶どころで育ったので、速やかに製茶することがいかに大切かが身にしみてわかっています。トラブルや相談があれば社員全員がフル稼働でメンテナンスに伺います」

同じように、機械のオーバーホールも丁寧に行なっています。オーバーホールとは、機械などを部品一つひとつまで分解、クリーニングし、再度組み立てること。ちょうど工場内では、20年間使われてきた精揉機のオーバーホールが行なわれている最中でした。1ヵ月ほどかけてメンテナンスとクリーニングをして、ピカピカの新品同様でお客様に戻すのだそうです。

「高価な機械ですから、一生もので使っていただきたいですね」

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もっとおいしいお茶を作りたい。その思いを機械に込める

また杉本さんは、新たな挑戦にも積極的です。10年前に自社で碾茶炉(てんちゃろ)を開発したのです。碾茶炉とは抹茶の原料になる碾茶をつくる過程で、茶葉を乾燥させる機器のことです。メンテナンスでお茶農家さんと対話した経験で培った問題点や、生の声を蓄積し、さまざまな課題を解決することで生まれた同社の自信作です。

「うちの設計した碾茶炉を導入してから、お茶の品質が上がった、おいしいと評価されるようになった、そんな声を聞くと嬉しいですね」

茶どころで生まれ育ち、製茶の苦労をずっと近くで見てきた杉本さんだからこそ、お茶への思いを込めて、お茶づくりを支える機器を提供することができるのでしょう。

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取材後に、杉本さんがお茶を淹れてくれました。茶器を温めて丁寧に一煎、二煎、と淹れてくれたお茶は、どこまでも香り高く、旨みの余韻がずっと残る素晴らしい味わいでした。

おいしいお茶づくりに欠かせない製茶機械の設計やメンテナンスを手がける杉本さんがいるからこそ、おいしいお茶が楽しめると言って過言ではありません。

お茶づくりを支える人々の思いを感じながら、一杯のお茶をしっかり味わいたいものですね。

(取材・文 郡麻江/写真 杉本幸輔)

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企画・構成=前田尚規
まえだなおき●月刊『茶の間」編集部員。3児の父。編集部内でのお茶博士(決して日本茶インストラクターではない)。その薄い知識をひけらかし、ブイブイ言わしているとかいないとか。休日に子どもたちと戯れるのが唯一の楽しみ。