カフェでお茶したいけれど、出かけられない。そんなときには自宅でお茶を楽しみませんか。おうちや仕事場でのお茶時間を個性豊かに楽しんでいる料理人、陶芸家、フードスタイリストの3人に、おうちカフェの楽しみ方を教えてもらいました。食に携わるプロの気取らないお茶時間を参考にしてみては。
01.仕事終わりに好きな音楽を聴きながら、家族と一服。気軽に抹茶を点てて、楽しんでいます。
「京料理・仕出し 井政(いまさ)」の主人・井上勝宏さんは、東京での修行時代に店の女将さんにすすめられて茶道を始め、約30年。京都に戻ってからも仕事の合間を縫ってお茶に親しむ時間を持っています。
そんな井上さんがリラックスタイムや家族の団らん時間に開いているのが、「おうちde茶会」。
ルールは、「とにかく好きに楽しむこと」だそうで、「仕事終わりに好きな音楽を聴きながら一服。お茶が終わったら、ビールに戻って…みたいな(笑)。ほんまにね、ゆるゆる! お茶会やなんて恥ずかしいわぁ」と謙遜しますが、茶道への造詣は深く、自宅の戸袋の引き戸には茶釜の鐶付(かんつき)を据えたり、こだわりの道具をそろえたり。
「結婚記念で宝づくしのお茶碗と茶杓を2つ、長男の初節句のときには、兜と菖蒲の絵、井上家の家紋を施したお茶碗を誂えました。今も結婚記念日、節句や子どもの誕生日には、特別なこのお茶碗を使ってお茶会を開いています。いつもは自作のお茶碗でと、ハレとケを使い分けてます」。
3人の息子さんたちもお茶会のある風景が幼い頃から日常となっているようで、「教えたわけではないのに、お茶碗を大事に扱うとか、床の間は無茶苦茶にしたらあかんとか。行儀を自然と身につけてくれましたね」と振り返ります。
「息子らは、おいしいお菓子食べたいだけかもしれませんけど」なんて、井上さんは笑いますが、その気楽さやゆるさが「おうちde茶会」の醍醐味です。
〈 PROFILE 〉
料理人
井上勝宏さん
京都で100余年続く、「京料理・仕出し 井政」の主人。美しい盛り込みと食材ひとつずつ丁寧に味を入れた「茶福箱」が人気。
京料理・仕出し 井政
【住所】京都市下京区西七条南中野町43
【営業時間】11:00〜18:30(最終入店)
【定休日】火曜休(祝祭日は営業)
【電話】075-313-2394
【HP】http://www.kyoto-imasa.com/
02.マイボトルに茶葉と水を入るだけ! 気軽に楽しめる水出しの冷たいお茶を持参して、仕事の合間に飲んで気分転換しています。
「僕は1年中、冷たいお茶なんです」と話すのは、陶芸家の中村亮平さん。
工房へ行くときは、水筒に茶葉と水を入れて持参。休憩どきにはちょうどいい塩梅の水出し煎茶が完成しているのだとか。
冷たいお茶が好きな理由を聞くと「喉が渇いたときとか、飲むとなんかキリッとしますね。仕事場でも家でも普段はアイスで楽しんでいます」。これを年中と言うのだから、冷茶愛は本物です。
そして、もうひとつ中村さんがこよなく愛するお茶があります。
「それは抹茶です。10年以上茶道を習っていて、大徳寺の月釜でお点前を披露することもあるんですよ」。
茶道の稽古では作法に則り、日本の伝統文化を大切に、お茶の時間に向き合います。
「清水焼の生地職人として抹茶碗を多く手がけていますが、自分がつくったものが、どんな風に使われているのか知りたくなって茶道を習い始めました。使ってみて分かることがたくさんあり、今ではライフワークのひとつとなっています」と中村さん。
手にすっと馴染む成形や、唇に沿うように口縁の内側を丸く仕上げるなど、実際に使う人を考えた作品を数多く生み出しています。
いつもの日常に寄り添う冷たいお茶と、作品を思うときに気づきを与えてくれる茶道。趣の違う2つのお茶は、中村さんの公私に渡るパートナーといえる欠かせない存在です。
〈 PROFILE 〉
陶芸家
中村亮平さん
清水焼の職人一家に生まれ、幼いころより陶芸の世界に親しむ。現在は、生地職人として活躍する傍ら、芸術大学で教鞭を執る。作品の購入希望は、メールにて問合せを。【MAIL】koyori.kyoto@gmail.com
03.友人へ手紙を書くときは、緑茶にドライフルーツなどを浮かべてアレンジし、おいしくいただきます。
雑誌や広告などでフードスタイリストとして活動する籔本敦子さん。元々は大の紅茶好きだったそうですが、月刊『茶の間』でお茶レシピの連載を担当した際に日本茶のおいしさを改めて実感し、今では「日本茶をいろんな形で楽しんでいます」と話します。
籔本さんが考えた「いろんな形」とは、家にあるもので手軽に、簡単にできること。
「私は、紅茶ポットに茶葉を入れて、ティーカップで。雰囲気を変えて楽しんでいます。お気に入りのアンティークの器に、食べてみたかった和菓子やチョコレートを並べて、日本茶と一緒に味わったり。自分の好きなものを和洋のジャンル関係なく、コラボさせるのが好きです」
また、「家で余らせがちなドライフルーツを日本茶に浮かべてもおいしいですよ。果物の甘みが日本茶の渋さや深みとよく合います。煎茶なら柑橘系、ほうじ茶ならレーズンやベリー系がおすすめ。友達や仕事でお世話になった方に手紙を書いたりする、一人時間のおともにぴったりです」。
家族でよそ行き気分を味わいたいときには、ワイングラスに水出しの玉露を注いでオシャレにコーディネートすることも。そんなときにぜひ試してほしいのが〝ハーブ〟のトッピングだそう。
「お庭やキッチン菜園でハーブを育てている方もいらっしゃると思います。さっと摘んできて、レモンと一緒にお茶に浮かべてみてください。ハーブの香り、玉露の甘みとレモンの酸味が合わさって、驚くほどに飲み口のよいドリンクになるんです。見た目も爽やかで、お店でカクテルを楽しむような雰囲気が味わえます」と、おうち時間が優雅になるアレンジも実践する籔本さん。
「私にとって、お茶は毎日の生活に必要な飲み物であり、ちょっとほっこりしたいときや、考え事をしたりするときのリラックスアイテムにもなります。だからこそ、手近なものでいつでも楽しめるって、大事なポイントです。『道具をそろえなきゃ』『お茶菓子を買ってこなきゃ』とかではなく、自由にお茶時間を満喫しています」
〈 PROFILE 〉
フードスタイリスト
籔本敦子さん
通販カタログや広告、雑誌などのスタイリング、料理提案を行なう。簡単なレシピを独自のコツでおいしく、お洒落に見せる提案が評判。過去、月刊『茶の間』でもレシピ連載を担当し、茶葉やお茶を使ったメニューを数多く紹介。家庭料理からスタイリッシュな食シーンまで、幅広いスタイリングを手がける。【instagram】@atsuko_photo_graph
お茶を愛する3人に、それぞれの楽しみ方を教えていただきましたが、いかがでしたか? なかなか外に出られないときは、おうちカフェの楽しみ方を参考にしてみてくださいね。家だからこそできる、自分なりの工夫と方法で、お茶時間を楽しみましょう!
(文 岡田有貴/写真 岡森大輔 津久井珠美 中村磨弥)
企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。