人間国宝の染織家・志村ふくみさんの世界観を次世代へつなごうと、孫の昌司さんが立ち上げたブランド「アトリエシムラ」。植物の色で染める草木染めは自然の恵みをいただくお茶と通じるものがあります。手作業で紡がれた色彩の美しき作品でお茶時間を楽しみましょう。
人間国宝の世界観を次世代へ ブランドの目指すものとは
青空の色の移ろいが風になびく草木染めのストール。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が織りなすその生地に2つと同じものはなく、自然と人とのコラボレーションで生み出されます。
この草木染めの染織ブランド「アトリエシムラ」を立ち上げた志村昌司さんは、重要無形文化財保持者(人間国宝)の染織家・志村ふくみさんの孫で、母・洋子さんも染織家として知られています。大学で政治思想史を学び、研究者を目指していた昌司さんが一転して始めた「アトリエシムラ」。そこで目指すものを聞いてみました。
アトリエシムラ代表
志村昌司さん
1972年、京都市生まれ。京都大学法学研究科博士課程修了。京都大学助手を経て英国Warwick大学客員研究員。
2013年、芸術学校「アルスシムラ」、2016年、染織ブランド「アトリエシムラ」を創設。2018年、2021年、新作能「沖宮」(石牟礼道子原作)プロデュース。小学校の総合学習でもはた織りを教え、手間暇かけた文化やていねいな生活を伝える活動をしている。(撮影:平谷舞)
「祖母や母の仕事は、自然の材料から糸を染めて、それをはた織り機で織るという手仕事で、個人作品です。その染織の勉強を開かれたものにしたいと思いました。僕は教育に興味があり、8年前に誰でも染織が学べる学校を創設、その卒業生が活躍できる場として5年前に立ち上げたのがアトリエシムラです」と語る昌司さん。世界的な服飾ブランドが、創業したデザイナーの名を冠して、会社としてその製品を普及させているように、「アトリエシムラ」も、ふくみさんの世界観を、次世代の若いつくり手たちが継承・発展させていくためのブランドなのだそうです。
自然の恵を作品へ お茶とも共通する植物へのリスペクト
志村ふくみさんは染織を始めるにあたって民芸運動の(やなぎむねよし)に学び、その思想に大きな影響を受けました。その根本にあるのは「自然への畏敬の念と植物へのリスペクト」。
「近代文明は、人が上位で自然を支配する考え方で発展してきましたが、僕たちの考えでは自然のほうが上位。染織は人類の最も原初的な営みです。最近注目の持続可能な開発目標の概念に通じるものもあります」と昌司さん。
お茶もまた、土と太陽の恵みで育ち、自然と人とのコラボで生まれ、共通するものがあります。自然のものを人が扱うためには、工業製品とは違い、手間も時間もかかります。しかし、自然からしか生まれない製品の味わいにはかけがえのない価値があります。
「お茶も同じ、手間がかかりますが、急須でていねいに淹れたほうがおいしいですよね。効率優先の世の中ですが、手間をかけたもののよさに、もっと触れてほしい」と昌司さん。手仕事を通じて草木染めの色彩世界を次世代に伝えたいという「アトリエシムラ」の挑戦に、今後も要注目です。
お茶会には自然の色が似合う。
アトリエシムラの作品を身にまとってお茶時間を
お茶会には自然の色が似合う。アトリエシムラの作品を身にまとってお茶時間を
お茶席やお呼ばれへは、気品ある色無地をまとう
お茶席やお呼ばれへは、
気品ある色無地をまとう
桜、梅、そよごなどの幹や枝から手作業で染められた、世界にひとつだけの淡桃色の着物を身につけて。無地のなかに縞や色の濃淡が景色となって浮かび上がり、光の具合でさまざまな表情を見せるさまは、まさに芸術作品。きちんとした席にもカジュアルにも着こなせる色無地は、まさに一生もの。
ふんわりと気軽に、植物の色彩を身につけて
ふんわりと気軽に、
植物の色彩を身につけて
首まわりにまとうと気分も軽やかになる、明るい茜(あかね)色と黄色の「色合わせストール」。トップページの作品の色違い。絹とオーガニックコットン製で、濃淡ある茜のムラ染め糸と、黄金花で染めた黄色の糸を複雑に組み合せて独特の風合いに。百日紅(さるすべり)で染めたグレーのラインが入る。
お気に入りの茶器を入れ、ピクニックでお茶を楽しむ
お気に入りの茶器を入れ、
ピクニックでお茶を楽しむ
クラフトライフスタイルブランド「kras(くらす)」とのコラボ商品。シダ植物のアタで編んだバリ島の籠は耐久性があり、使い込むほどに風合いを増す。krasが一つひとつ手仕事でつくるアタ籠にアトリエシムラの草木染めの小裂(こぎれ)を手縫いしている。家で茶道具入れにするのも、ピクニックバスケットにも。
風合いある草木染めが目を引く、お茶会の必須アイテム
風合いある草木染めが目を引く、
お茶会の必須アイテム
懐紙や袱紗などを入れる数寄屋袋は、お茶会シーンでも意外に目につく存在。自然の植物で染め、手織りされた裂(きれ)でつくられた数寄屋袋は、風合いがあり、ひときわ存在感が違う。お茶会だけでなく、着物でのお出かけや、洋装の際の小物入れとしてもおしゃれ。御朱印帖を入れて持ち歩くにもよい。
お茶席の袱紗も草木染の自然な色合いで
お茶席の袱紗も草木染の自然な色合いで
懐紙や袱紗などを入れる数寄屋袋は、お茶会シーンでも意外に目につく存在。自然の植物で染め、手織りされた裂(きれ)でつくられた数寄屋袋は、風合いがあり、ひときわ存在感が違う。お茶会だけでなく、着物でのお出かけや、洋装の際の小物入れとしてもおしゃれ。御朱印帖を入れて持ち歩くにもよい。
【住所】京都市下京区河原町通四条下ル
市之町251-2 壽ビルディング2F
【電話】075-585-5953
【HP】https://www.atelier-shimura.jp
【営業時間】12:00〜18:00
【休業日】水曜・木曜(祝日の場合は営業)
【住所】東京都世田谷区成城2-20-7
【電話】036-411-1215
【営業時間】11:00〜17:00
【休業日】水曜・木曜
植物から生まれた色で染める草木染めは自然の恵みを手作業で作品にしていきます。まさに自然と人間のコラボレーションによって生まれるもの。それはお茶にも通ずるものです。だからこそ、アトリエシムラの美しい作品は、お茶に敬意を払うお茶会に向いているのかもしれません。人間国宝・志村ふくみさんの思想は娘、孫、そして世界へと広がっています。そんな想いを抱いたブランド・アトリエシムラの作品に心おどらせて、お茶の時間を彩りませんか。
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(文 中岡ひろみ)
(撮影 刑部信人/八木ジン/平谷舞)
企画・構成=新見麻由子
にいみまゆこ●月刊『茶の間」編集部員。徳島県出身、歴史や文化、レトロなものに憧れて京都へ。休みの日は、散歩や自宅でお茶を片手に本を読みながらまったり過ごしたい。季節を感じる和菓子やお花に興味がでてきた今日この頃。