お茶のバトンに感動!日本茶ドキュメンタリー映画『ごちそう茶事。』

一杯のお茶ができるまでの物語を知っていますか? 2021年に公開された、史上初の日本茶ドキュメンタリー映画『ごちそう茶事。』には、日本茶の今とこれからがたっぷり凝縮されています。知っているようで知らない、お茶の世界に触れてみてください。

映画のおともにぴったりのお茶はこちら

新芽に朝日が当たる、幻想的な茶畑。川が近く霧深い山間部でおいしいお茶は育まれる。
撮影したプロデューサー・たかつまことさんは「この風景はお茶の神様からのプレゼント」と言う。
新芽に朝日が当たる、幻想的な茶畑。川が近く霧深い山間部でおいしいお茶は育まれる。 撮影したプロデューサー・たかつまことさんは「この風景はお茶の神様からのプレゼント」と言う。

主人公は、茶畑からお茶になるまでの
リレーを紡ぐプロフェッショナルたち

都会の喧騒の中、ふと入った日本茶喫茶。火にかけられた釜からは、シュンシュンと「松風」の音色が響き、淹れ手がじっくりと急須でお茶を淹れる。とぽとぽと湯呑に注がれる一杯のお茶からは、森林を思わせる爽やかな香りが立ち上る……。

この作品は、お茶がもたらしてくれる癒しを伝えるとともに、お茶の向こう側にある景色を見せてくれる、今までにない日本茶のドキュメンタリー映画です。

登場人物は、茶畑からお茶になるまでのリレーを紡ぐプロフェッショナルたち。茶農家や茶師、淹れ手と、実にさまざまなお茶のプロたちが登場し、それぞれが思うお茶のよさを語っています。

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お茶好きによる
お茶ファンを増やすための新たな試み

「新芽が朝日に照らされる瞬間が一番好き」と語る茶農家の片平次郎さん。「東京のようなコンクリートジャングルでも、湯呑に日本茶さえ入っていれば、自然が楽しめる」と話す日本茶伝道師のブレケル・オスカルさん。「お茶は生き物です。お茶から発せられるサインを見極めて、揉み上げると、お茶が言うことを聞いてくれるようになります」と話す手揉み師の中島毅さん。お茶に魅せられ、お茶に人生をかける人々の言葉には力があり、お茶の素晴らしさを改めて感じさせてくれます。

前半は、茶畑から一杯のお茶になるまでの過程が描かれていて、普段なかなか見ることができない、お茶の辿る道に新鮮な驚きを感じます。後半では、お茶の淹れ手や多様性に注目し、お茶の面白さの広がりを描いています。

身近にありすぎて、普段は意識せずとも飲んでしまうお茶ですが、その背景に意識を向けることで、お茶の面白さや奥深さに改めて気づかされます。まさにお茶の魅力を再発見する体験です。この映画を観たあとに、お茶を飲みながら、身近な人とお茶の魅力について語るのはいかがでしょうか。

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映画『ごちそう茶事。』公開記念インタビュー

映画『ごちそう茶事。』
公開記念インタビュー

たかつ まこと

プロデューサー・脚本
たかつ まことさん

仕事はお茶関係でも映画関係でもないが、日本茶の「好き」をおすそ分けしたくて、日本茶ドキュメンタリー映画『ごちそう茶事。』を制作(プロデュース・脚本を担当)。オフの日を使って、茶葉男子ユニット「オッサム・ティー・ラボ」での活動、茶農家さんのお手伝いなど、お茶の好きを深めたり伝えたりする活動を行う。最近は、増えた在宅時間でおうち喫茶を満喫・拡散中。

日本茶の魅力を伝え、次世代のファンを増やしたい

「自分の好きなお茶の魅力を広めて、お茶ファンを増やしたい」その一心で、日本茶ドキュメンタリー映画をつくったプロデューサーのたかつまことさん。お茶にかける想いをお聞きしました。

––––  まず初めに、お茶の映画をつくったきっかけを教えてください。

お茶ファンになって10 年目になりますが、今から約3 年前、たまたまコーヒーの映画を観たことがきっかけでした。知り合いに誘われて観に行ったのですが、コーヒーにまつわる映画を観たあとにみんなでコーヒーを飲んだときの体験が忘れられなくて。「これを日本茶でもやりたい!」と強く思ったんです。

––––  実際に、映画をつくってみていかがでしたか?

僕自身、映画づくりの知識はなかったので、知っていそうな知人に声をかけて、協力してもらいました。実際につくってみると、予想以上に大変でしたが、怖いもの知らずというか、知っていたらつくれなかったんじゃないかな、と思いました。いろいろあって、公開の予定が大幅に遅れてしまったのですが、支援してくださる方々に「焦らず、納得するものをつくってください」とやさしい言葉をかけてもらいました。お茶好きの方々のおおらかな空気感に、よりいっそう、お茶を取りまく人々が好きだな、と感じました。

––––  特に印象的なできごとはありましたか?

お茶好きが高じて、実は日本茶インストラクターの資格も取ったのですが、そんな僕でも、お茶づくりの現場に行って初めて体験したことがたくさんありました。特に印象的だったのが「香り」ですね。映画の中でも「日本茶は摘みたて、蒸したての香りを、お湯をさしたときに再現する」という言葉が出てきますが、その香りを現場で体験することってなかなか難しいことですよね。一番茶を摘むという、茶農家さんが一番気合の入っているときの空気感、その場の香りっていうのが、新鮮で忘れられません。映画では香りは届けられませんが、映画を観たときに、お茶好きな人は、知っている香りがよみがえる。そして、知らない人は、映画に出てくるお茶の香りを感じてみたい、という気持ちになってもらえたらうれしいです。

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––––  この映画で伝えたかったことは何でしょう?

2 つあります。1 つは、お茶の魅力です。自分がお茶ファンになって最初の頃に、知っていたらもっと素敵さを感じられただろうな、と思うことを表現しました。自分の好きをおすそ分けして、誰かが好きになってくれるってすごく幸せなことです。もう1 つは、お茶を次世代に渡したいという思い。今、辞めていく茶農家さんが多いのです。一方で若い世代がお茶の面白さに気づいて、自分たちの日常に取り入れはじめています。東京でもここ2 ~3 年でお茶を扱うカフェが増えました。消費の最前線と産地の淘汰のスピードにギャップがあり、せめぎあっているような感じです。感覚的には淘汰のスピードが早く、5 年後だったら、同じ映画を撮れない可能性があるなと思います。でも、僕はやっぱりお茶が好きだから、自分の未来に向けて楽しみたいですし、次世代にもちゃんと渡したいと思って。そのためには、お茶に価値を感じて、お金を払って楽しむ人が増えることしかないんです。この映画がその後押しになれればいいなと思います。

––––  これからの展望を教えてください。

このプロジェクトはマラソンでいうとちょうど折り返し地点です。映画を届けて、さらにグッとくるお茶体験をしてもらうまでが目的なので。これからは、届けるところをやっていきます。一般的な映画館ではなく、小規模で開催するマイクロシアターやオンラインでの配信を予定しています。この映画をきっかけに、「日本で自分の周りに、こんな素敵なものがあるんだ。じゃあ飲んでみようかな」となってほしいですね。飲んでくれたら、好きになってもらえる自信はあるので。その一歩目まで、ご案内させていただきます。

––––  最後に、お茶のどんなところが好きですか?

日常にあって非日常を味わえるところです。自分の家にいながら、自然を感じたり、旅ができる。気分転換もできますし、お客様へのおもてなしにもなる。そして何よりお茶によって人の縁が広がる。日本が誇る素晴らしい飲み物だと思います。

映画『ごちそう茶事。』

自主上映会やオンライン配信などで上映中。詳細はHP を参照ください。 https://gochisochaji.com

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この映画を観終わったあとは、いつものお茶の味が変わったように感じる、そんな「スパイス」のような作品です。おうち時間にお茶を楽しみながら、お茶に人生をかける人々の想いに触れてみませんか?

企画・構成=大村沙耶
おおむらさや●月刊『茶の間」編集部員。福岡県北九州市出身。休日は、茶道や着付けのお稽古、キャンプや登山に明け暮れる。ミーハーだけど、伝統文化と自然を愛する超ポジティブ人間。