東洋医学に学ぶ夏のセルフケア。冷えや不調はあたたかいお茶で養生を

夏の暑さに冷たい飲み物や食べ物を求めてしまいがちですが、実はそれが体調不良につながることも。なんとなくの不調や夏バテ、食欲不信の原因は「冷え」にあります。夏こそあたたかいお茶がよい理由を、東洋医学の考えから教えてもらいました。今年の夏はあたたかい「お茶養生」で元気に!

暑い夏にあたたかいお茶を、健康成分たっぷりの深蒸し茶はこちら。

お灸堂
教えてくれる人鋤柄 誉啓先生

すきから たかあき●愛知県出身。明治鍼灸大学を卒業後、京都市内の鍼灸院勤務を経て2013年にお灸治療専門サロン「新町 お灸堂」を開院。2021年に五条に移転。講演会や漫画の監修など、さまざまな方法でお灸文化を発信している。

人のからだと自然は同じ? 東洋医学を知るためのキーワード

天人合一思想

人と自然との関係を表す考え方。東洋医学において、人体の機能と天地・自然は相応している、一体であるとする。例えば、春になると木は葉を生い茂らせ花を咲かせる活動期。冬になると葉を落として活動を低下させエネルギーを蓄える時期。人間のからだも同じで、活動期とエネルギーを蓄える時期がある。

気血水

「気」は目には見えない生命のエネルギー。「元気」の気、「気力」の気であり、人の原動力。「血」は全身を巡ってさまざまな栄養を届ける。「水」は血液以外の体液全般。からだを潤し、余分な熱を冷ます機能も。これら3つが互いに影響し合い、バランスよくあることで健康を保つことができる。

「なんとく」の不調は、実は夏の対策がカナメ!

今年も暑い夏がやってきました。活発なイメージのある季節ですが、実は夏になんとなく不調を感じる人が多いことをご存知でしょうか。

東洋医学では「未病(みびょう)」という、健康から病気にむかっている状態を意味する言葉があります。病気になってしまってからでは治療は大変ですが、その手前の「なんとなく」の不調を改善させることが大切です。そのためには、一年の中でも、もっとも夏の対策が必要だと教えてくれたのは、京都でお灸サロンを開いている、東洋医学の専門家「お灸堂」の鋤柄誉啓(すきからたかあき)先生です。

「東洋医学の考え方で、自然と人間の“気”は同じ作用をもたらす、天人合一(てんじんごういつ)思想というものがあります。木や花は、あたたかい季節は活動的で、寒い季節はエネルギーを蓄えます。そうした自然の摂理は人間も自然の木や花も同じなのです」

木や花が季節に合せて姿を変えるように、人間のからだも自然の移り変わりに合せて、衣類や食べ物、生活のあり方を見直して変えていくのが必要だそうです。

お灸堂

夏バテ、食欲不信…原因は「冷え」!? 江戸時代の名著『養生訓』にも記された夏の保養の大切さ

夏の不調といえば、暑さからくる夏バテ、食欲がなくなったり、吐き気や下痢をもよおしたりといった症状が挙げられますが、これらはすべて「冷え」が関係していると鋤柄先生は言います。

「“冷え”と聞くと、冬の時期の冷え性を想像する方も多いですが、夏のからだは冷えることしかありません。というのも、気温や体温が上昇し、暑くて汗をかきますよね。からだは汗をかくことで熱を放出して冷まそうとするのです。それ自体はとてもよいのですが、からだの機能として冷ましているところに、強制的に冷たい飲み物や食べ物、クーラーなどの冷房で必要以上に冷やしてしまうのがよくありません。とはいえ、クーラーを我慢して熱中症になるトラブルも多いです。快適に過ごすために、冷房を適度に注意して使用することが大事です」

冷え

「冷え」は万病の元。気や血のめぐりが悪くなり、病気や不調につながります。また、冬に冷え性に悩む人は、夏の疲れや不調を引きずっている可能性があると鋤柄先生。

「一年の気の流れは、夏がもっとも活動的で冬に落ち込みます。なので夏に気のめぐりが滞り不調になると、次の季節にも引きずってしまい、その影響が出ていると考えられます」

江戸時代の儒学者・(かいばらえきけん)による健康・長寿を保つための心構えを記したベストセラー『養生訓』には「四時(しじ)、の内、夏月、尤(もっと)も保養すべし」とあります。夏は「霍乱(かくらん)・中暑(ちゅうしょ)・傷食(しょうしょく)・泄瀉(せっしゃ)・瘧痢(ぎゃくり)の病。おこりやすし。(中略)夏月、此病おこれば、元気へりて大に労す。六・七月の酷暑の時は、極寒の時より元気へりやすく保養すべし」とあります。霍乱は嘔吐や下痢、今でいう急性腸炎、中暑は夏バテ、泄瀉とは下痢を意味し、今日にも通じる症状なのがわかります。

「必要以上に冷ますことを避け、あたたまっている自然のリズムに合せて、人のからだも適度にあたためてあげることが大切です」

そこで鋤柄先生がおすすめするのが、「お茶養生」です。

夏こそあたたかいお茶でからだも心も元気に過ごすために、 「お茶養生」を始めよう!

いったい「お茶養生」とはどういうことでしょう。まず「養生」とは、その字のごとく生命を養うことを意味します。

「生命はいつか必ず終わりがきます。生命の長さは鍛えたり努力してもどうにもなりません。そう考えると、人生は常に右肩下がりとさえいえますね。ですが、その下り坂の角度を、病気をして急激に険しくするのではなく、緩やかな角度でいられるように養うことを心がけたいですね。」

つまり、暑い夏にあたたかいお茶を飲むことは養生になるのです。『養生訓』にも、「温かなる物を食ひて、脾胃(ひい)をあたたむべし。冷水を飲むべからず」と記されています。

「“あたたかい”というのは、約37度ほどの人肌以上の温度のことを指します。夏は暑さから、ついつい冷たい物を欲してしまいがちですが、胃は入ってきた物を消化するのに、まず人肌程度にしてから消化活動を行ないます。冷たい物だと胃の中であたためるのに時間と体力を消費して弱ってしまうのです」

夏は汗をかいて水分を失っているので、意識して補給することは大切ですが、その温度にも注目するべきだと鋤柄先生は言います。

熱を発散して冷えているからだで冷たい物を摂取するのは、胃への負担になり不調につながります。あたたかいお茶で胃への負担を軽減してあげることが大切です。

お灸堂・鋤柄誉啓先生

お茶を飲んで「ほっ」とひと息。これがストレス発散になる!?

東洋医学では、病気の原因には内因(ストレス)・外因(気候や気温などの環境)・不内外因(生活習慣)の3つがあると考えられています。そうした原因を取り除き労(ねぎら)うことが大切です。

鋤柄先生はSNSで多くの養生方法を提案・発信しています。それらの方法はとてもシンプル。例えば、お風呂に浸かる、靴下を履くといった一見、「当たり前」のようなことを意識し、毎日の生活の中で無理をしないことが大事だと教えてくれました。

「人間のからだと心はシンプルなものです。過剰なまでの刺激を避けて、肩の力が抜けるような素朴でマイルドなものを取り入れてあげましょう」

からだは心の容れ物。気分がすぐれないのではなく体調が悪いのかもしれませんし、からだをメンテナンスすれば気分が晴れやかになることもあると言います。

日頃から食後にあたたかいほうじ茶を愛飲している鋤柄先生。日本茶の飾らない素朴さがよいとか。

日本茶

「素朴ということは体調管理において大切なことです。毎日ご馳走だと疲れて食あたりを起こしてしまうように、ハレとケでいうところのケを意識するのも立派な養生です」

今の世の中はさまざまな情報が飛び交い、スピードが早くて疲れを感じる方も多いはず。緊張する機会が多い世相だからこそ、生活の刺激物を取り除くために、お茶が有効となります。

「あたたかいお茶を飲むと、自然とほっと息が出ますよね。東洋医学では、ストレスが溜まると愚痴やため息が出やすくなるといわれています。胸に詰まったものを吐き出してあげ、吐いた分だけ新しい空気が入るということです。まさに“お茶養生”ですね」

あたたかいお茶でからだを冷やさず、ほっとひと息ついてリラックスすることで、からだと心を養ってあげることができます。今年の夏は、東洋医学の考えに習ってあたたかいお茶で健やかに過ごす「お茶養生」をしてみませんか。

お灸堂
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多くの人が感じている夏の不調。その原因は「冷え」にあります。冷たい飲み物や冷房で冷えすぎたからだは不調のもと。東洋医学では、人のからだと自然のめぐりは同じと考えられています。江戸時代のベストセラー『養生訓』にも、夏の保養の大切が記されています。あたたかいお茶で水分を補給しつつ、からだを労ってあげる「お茶養生」がおすすめです。夏の冷え対策にあたたかいお茶で元気にお過ごしください。

planmake_niimi

取材・文=新見麻由子
にいみまゆこ●月刊『茶の間」編集部員。徳島県出身、歴史や文化、レトロなものに憧れて京都へ。休みの日は、散歩や自宅でお茶を片手に本を読みながらまったり過ごしたい。季節を感じる和菓子やお花に興味がでてきた今日この頃。