特別掲載! 製茶から口切、抹茶ができるまで「製茶図」絵巻を大公開

京都の茶道資料館では、秋季展「新茶を祝うー製茶から口切の茶事までー」を開催。秋に新茶となる抹茶ができるまでの過程を描く「製茶図」が展示されます。今回は特別に、全長約15メートルにもおよぶ製茶図絵巻を最初から最後まで、当時の人々の働きや製茶の工程をわかりやすく一挙に掲載!

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木下 明日香さん 道資料館学芸員。専門は近世絵画史。 2012年より現職。主な著書に『文様を読む』(淡交社)。

まずは準備! お茶を育てる道具づくり

「宇治摘茶及製作之図」 明治29年 茶道資料館蔵

製茶は道具づくりからスタート。茶園を覆うためのよしずをつくる風景。
ていねいに編み上げていきます。

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「宇治摘茶及製作之図」 明治29年 茶道資料館蔵

蒸した茶を広げて冷ますための大きな「すずしカゴ」などをつくっています。

宇治ならではの「覆下おおいした栽培」の様子

「宇治摘茶及製作之図」 明治29年 茶道資料館蔵

当時、覆下栽培は宇治茶限定。茶園に覆いがかけてあることで、宇治茶を描いたものと判断できます。

初夏の風物詩・茶摘みには見物人も!

茶摘み

雨の日も、雨具をつけて茶摘みが行なわれていたよう。
自然相手のこと、摘採のタイミングは限られていました。

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茶摘み

茶摘み風景は初夏の風物詩。収穫時期が限られているので、
子連れも含めて多くの女性が集められていました。

「製茶図」とは? お茶づくりの手間ひまが知れる絵

『大日本物産図会』より宇治茶摘図(部分)歌川広重(三代)画/明治十年以降 今日庵文庫蔵

製茶図というのは、茶摘みから蒸し・焙(あぶ)りなどの製茶工程、壺詰めまでを描いた絵画で、古いものには江戸前期頃のものがあり、各地の寺院や旧家などに伝わってきました。製茶図には覆下茶園の様子が描かれ、覆下栽培が認められていたのは京都の宇治のみであったので、宇治茶の製茶風景とわかります。

江戸時代を通していくつもの製茶図が描かれた制作背景には、時間と手間をかけた製茶工程を知ってもらうことで、宇治茶の価値を上げ、需要を拡大させたい生産者側の目的があった可能性もあります。

また、宇治茶が名産として描かれる例も江戸時代中頃からはじまり、『大日本物産図会』(明治時代)でも茶摘み風景が取り上げられています。

工程の多さにびっくり! 収穫した生葉をお茶へ 

計量

茶摘みや茶づくりの風景を、わざわざ見学に来訪する人もいたよう。
茶畑から運ばれてきた茶葉は、室内でカゴに広げ、そこから天秤ばかりで計量していきます。

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生葉の選り分け

摘んだ茶葉をいっせいに選り分ける女性たち。ここで余分な茎や葉、ゴミや汚れを取り除いています。選別された茶葉は、蒸しの工程に入る。炭をおこして茶葉を蒸すのは男性の仕事。記録係もいます。

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粗熱とり

蒸し上がり湯気を立てる茶葉は、すずしカゴに広げて、うちわであおぎ、粗熱をとっていきます。

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焙炉

まだ湿っている茶葉は、炭火を起こした大きな焙炉(ほいろ)の上に広げて乾燥させます。待ったなしの流れ作業です。

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炭を足す

焙炉の脇に積んだ炭俵から炭を足し、火吹き竹で吹いて火勢を強めます。汗だくの作業に、裸になる男性たち。焙炉で乾燥させた茶葉をざるに広げて熱をとります。作業の横で、記録係がきっちりと帳面に記録します。

製茶図には、製茶プロセスや当時の風俗も描かれている

製茶図には、茶づくりのためのさまざまな風景が、時系列で描かれています。茶園を日光から遮るためのよしずづくりから始まり、覆いをかける風景、茶摘み風景、茶葉の選別、蒸しや乾燥の工程、女性が多く働いている様子、見物人の来訪、当時の道具、風俗など、いろいろなことを読み取ることができます。

しかし一貫してわかるのは、非常に多くの人が、分担してと茶づくりに関わっていたということです。また、茶葉の選別が何度も行なわれていたこと、カゴは使い捨てで毎年新しく新調することなど、名産地とされた宇治茶が、いかに高い品質を保つための努力をしていたかが描かれているといってもよいでしょう。

ここで一段落、使ったカゴは壊して捨てる!?

かごやぶり

乾き上がった茶葉は、今度は室内に運ばれる。量を確かめながら大きな壺に流し入れ、蓋をして、一連の作業は一段落となります。ここまでの作業で使ったカゴを壊す「かごやぶり」と呼ばれた作業。来年はまた、新しいカゴをつくるのです。

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さぁ! おいしいお茶のための最後のチェックが重要

茶見

壺に詰めた茶の状態を見る「茶見の図」。厳しい目を経て次の作業へ。

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煉りの焙炉

茶葉を女性たちが選別したあと、煉(ね)りの焙炉にかけていきます。
煉りは、仕上げの乾燥です。

茶壺に詰めてあとは秋になるまでのお楽しみ!

茶壺に詰める

仕上げた茶葉を、裃(かみしも)をつけた男性たちが検分。最後の確認をして茶壺に詰め、封印していきます。茶師は完成した茶葉を石臼で挽き、抹茶を点てて、味を検分。ついに抹茶の完成です。

茶壺はとても重要! 11月は茶人にとっての正月!?

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信長や秀吉、千利休の時代には茶壺は重要でした。なぜなら茶壺は茶葉の保管容器で、これがないと茶の湯ができなかったのです。当時、日本でつくることができず、中国から輸入していた茶壺は「銘(名前)」をつけて珍重されました。江戸初期には将軍家へ宇治茶を運ぶ「お茶壺道中」も始まり、茶壺は高価な抹茶を象徴する存在となりました。

抹茶用の茶葉は、初夏に茶壺に詰め、秋まで熟成させます。青くさい風味が消え、夏の時期を経てまろやかに熟成するのです。茶の湯では11月に「口切」の茶事を行ないますが、口切というのは茶壺の封印を切るという意味です。茶壺の中には濃茶用の茶葉が入った白い袋と、袋と茶壺との隙間を埋める緩衝材として、薄茶用の茶葉がぎっしり詰められています。口切の茶事では、封印を切って取り出した茶葉を石臼で挽き、初物の「新茶」として招待客に振る舞うのです。この口切に招かれることは茶人の誇りでした。

それほどに貴重な茶壺でしたが、その後、錫の容器が発明され、都市にお茶問屋ができるなど、早くも1630〜40年代には衰退していきます。ですが現在も茶の湯の世界では、茶壺の口切は1年で最も大切な行事として継承され、茶壺も使われ続けています。

茶道資料館新茶を祝う-製茶から口切の茶事まで

茶道資料館
【場所】京都市上京区堀川通寺之内上ル寺之内竪町682裏千家センター内
【開館時間】 9:30~16:30(入館は16:00まで)
【休館日】月曜日(但し祝日は開館、翌平日休館)、第2・4火曜日
【入館料】一般700円、大学生400円、中高生300円、小学生以下無料
【呈茶】平日と一部土・日に開催。予約優先制(別途入館料が必要)一般500円、小学生以下300円、
学生証提示により300円
【問い合せ】075-431-6474
【HP】http://www.urasenke.or.jp/textc/gallery/index.html

おわりに

近年、世界中から注目を集める「抹茶」。その知られざる歴史的な製茶方法を明治ごろに描いた「製茶図」の絵巻を眺めていると、その工程や関わる人の多さを感じます。長い工程を経て茶壺の中で大切に熟成された抹茶が秋にはいよいよ口切られ、新茶として登場します。茶道資料館の秋季展「新茶を祝うー製茶から口切の茶事までー」を観て、抹茶の深みに触れてみませんか。

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(ライター 中岡ひろみ)

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取材・文=新見麻由子
にいみまゆこ●月刊『茶の間」編集部員。徳島県出身、歴史や文化、レトロなものに憧れて京都へ。休みの日は、散歩や自宅でお茶を片手に本を読みながらまったり過ごしたい。季節を感じる和菓子やお花に興味がでてきた今日この頃。