煎茶道のプロに聞いた、いつものお茶がもっとおいしくなる淹れ方

煎茶を使ってお手前を行なう「煎茶道」。小川流煎茶師範の渡邊由楽先生が、家庭でも応用できるおいしいお茶の淹れ方、そのエッセンスを特別に教えてくれました。お茶の淹れ方を変えるだけで、香りも味わいもまるで別物。新たなお茶の魅力が広がります!

小川流煎茶・師範渡邊由楽先生

教えてくれた人 小川流煎茶・師範渡邊由楽(わたなべゆうらく)先生

皇室の菩提所である泉涌寺の塔頭の一つ、戒光寺(かいこうじ)ご住職の奥様であり、同寺で小川流煎茶の教室を開く渡邊先生。「お寺の朝のひと仕事を終えて、その後に朝食をいただき、食後に毎日、ゆっくりとお茶を淹れて、住職とともに楽しんでいます」。

 

小川流煎茶の教え

煎茶道には多くの流派があり、江戸時代に医家・小川可進(おがわかしん)が始めたのが小川流煎茶。「清風の茶」ともいわれ、古くから文人墨客(ぶんじんぼっかく)に愛されてきた。「茶は喫するなり」とは、お茶は渇きを癒すために飲むものではなく、味わい喫するものという教え。この言葉を真に理解するために、師範や門下生たちは、お茶本来の味、「茶味」を日々、追求している。[HP]http://www.ogawaryu.com

おいしいお茶を淹れたいと想うことが第一歩

私が小川流煎茶に出合って20数年になります。小川流煎茶のお茶を初めて口に含んだときの旨みの深さ、濃さに衝撃を受けました。

あるとき、ふと気づいたことがあるのです。御家元のお稽古場で飲むお茶はとてもおいしいのに、自宅で淹れてみると味が違うのです。なぜ、甘く香りよく淹れられないのだろう? と悩みました。

家とお稽古場、場所、時間、シチュエーションなどさまざまな要因があると思いますが、まだ答えは出ていません。でも、試行錯誤するうちに、大切なのは「おいしい! と喜んで飲んでもらいたい」という思いで淹れることだと気づきました。同じお茶でも淹れ方一つで味は本当に変わってきます。「おいしいお茶を淹れたい」と意識して、ていねいに淹れること。難しい精神論ではなく、その想いがあれば、準備も行き届きますし、所作(しょさ)もていねいになり、それがおいしいお茶を淹れることにつながると思います。

小川流煎茶の考え方の中から、ご家庭でも参考になりそうなポイントを選り抜いて、いくつかお教えします。

ぜひ試してみてください。

お茶の道具を事前に用意しましょう

お茶の道具

最後の一滴まで絞り出すように淹れるには、小さめの急須が理想的。湯冷ましは、温度調整の道具。建水とは、茶碗を温めたときに使った湯を捨てるための道具です。茶則とは、茶葉を急須に移す茶さじで、家庭にあるもので代用可能。あらかじめすべての道具を準備しておくことで、心に余裕が生まれます。

1煎目、2煎目はお茶の旨みをじっくり引き出して楽しんで

1煎目、2煎目はお茶の旨み

ご家庭でお茶を淹れるときには、1、2煎目と3煎目でガラリと異なる楽しみ方をなさることをおすすめします。すなわち、1煎目と2煎目はじっくり待って淹れた旨みの濃い少量のお茶を味わって。そのあとお菓子をいただいて、3煎目からはお菓子とともにおしゃべりを楽しみながら、たっぷりのお茶をいただきます。

数ある煎茶道の中で小川流煎茶のお茶は一番量が少なく、「滴々(てきてき)のお茶」と呼ばれています。「滴々のお茶」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、これはゆっくりと茶葉の旨みを引き出し、ぽとぽとと最後の一滴まで、お茶を絞り出すように淹れることをいいます。

では、ご家庭で「滴々のお茶」のように淹れるには、どのように淹れればよいのでしょうか。初めての方が煎茶を淹れるときを想定してお伝えするなら、「湯冷ましなどを使って適温にしたお湯を、茶葉が浸るぐらいの少ない湯量で、ゆっくりと待つ」のがコツです。

まず、湯冷ましにお湯を注ぎ、そのお湯を茶碗に注いで茶器を温めます。茶碗のお湯は建水などの器に捨てます。再度、湯冷ましにお湯を注いで、湯温が下がるのを待ちますが、湯温の確認は小さな器に一度注いで、飲んでみるのがおすすめです。ピリッとした熱さでなく、するっと舌の上を通るぐらいの和らいだ湯温が適温です。

急須にお湯を入れるとき、1煎目では、手前の空いている場所と茶葉のちょうど境界線のあたりにお湯が落ちるようにゆっくりと注ぎます。湯量は茶葉に対してひたひたぐらいを目安にします。急須の蓋をして、しばし待ちます。このあいだに茶葉が開いて、旨みがじんわりと出てくるのです。

煎茶の入れ方
(1)一煎目を注いでいるときの様子。急須の内面のへりと茶葉の境界線にお湯が落ちるようにゆっくりと注ぐ。
(2)注ぎ終わり、蓋をする前の様子。湯量は茶葉に対してひたひたぐらいを目安にする。
(3)じっくりと待って淹れた少量のお茶。小さな黄緑の水面の向こうに、宇宙が広がるかのようだ。

1滴1滴を大切にして淹れたお茶は、旨みが格段に違う!

茶葉が開くのを待つ蒸らし時間の見極めは、難しいものですが、煎茶は一般的に1分弱が適当です。もっとも茶葉によって、またその日の気候によってもお茶の味わいは変わってきます。この時間はあくまで参考にしていただいて、実際にお茶を味わうことを繰り返して、ご自身の好みを見つけていただければうれしいです。

茶碗にお茶を淹れるときは、濃度や味が人数分に均等になるように、何度かに分けて注いで、最後の一滴まで絞り切ります。急須に茶液が残ると雑味が出てしまいますので、注意しましょう。

こうして淹れたお茶は、お茶の旨みを深く味わうためのもの。まさに「喫する」ためのお茶です。喉の渇きを潤すためにごくごくと飲むものがお茶だと思っていた方は、きっと驚かれることでしょう。繊細で、どこまでも旨み深く、余韻が長く続きます。

2煎目は適温のお湯を真上から茶葉をほぐすように注いでいきます。ほぐすことで、再び、旨みを引き出すことができるのです。湯量はこのときもひたひたで。じっくり待って、1煎目と同じように、最後の一滴まで茶碗に注ぎます。

3煎目はお菓子と一緒に。お客様と和やかな団らんを

3煎目はお菓子と一緒に

小川流煎茶のお茶席では3煎目にお白湯をお出ししますが、今回の3煎目はたっぷりのお湯を注いで淹れ、いつもご家庭で飲まれるように「のどを潤すお茶」として味わいます。ここでお菓子を一緒にお出しして、お茶とともに皆さんで和やかなひとときをお楽しみください。

お茶に合せるお菓子は、どんな方とお茶を飲むのか? どんな茶葉を選ぶのか? など、シチュエーションに合せて自由な感覚で選びましょう。私自身は、お煎茶には濃厚な味のお菓子より、木の実やドライフルーツなどを使った、あっさりとナチュラルな味が合うと思います。

よくお出しするのが手づくりのくるみのキャラメリゼです。くるみを煎って三温糖でからめたもので、自然な甘味とコクがあって、生徒さんにも人気があるんですよ。

ほかにも地方のお菓子から旅の思い出話に花が咲いたり、ハロウィンやクリスマスなど祭事に合せたお菓子で季節を演出したり。小さなお菓子ひとつにもその場を和ませる素敵な力があると思います。3煎目はゆったりとくつろいで茶話時間を楽しんでください。

おわりに

今回は、小川流煎茶のエッセンスを取り入れつつ、ご家庭で煎茶を楽しむためのアイデアをご紹介しました。煎茶道の世界はもっと奥深いものですから、知りたいと思われる方は、教室などをのぞいてみてはいかがでしょうか? まずはおいしいお茶を淹れて、ゆっくりとお楽しみください。

(写真 津久井珠美/ライター 郡麻江)

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取材・文=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。