抹茶をもっと自由に、気軽に。京都人に聞いた3者3様の楽しみ方

スイーツやラテなど、さまざまな楽しみ方がある抹茶。茶道の作法やしきたりは苦手だけど、抹茶の味は好きという方も多いのでは? 抹茶の本場・京都で、リラックスには抹茶が欠かせないという3人にインタビュー。作法などに囚われない、自由な楽しみ方をお聞きしました。

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「お客様を見送ったあと、ほっこりと一息。
自身を労う一服がまた格別です」

[箏曲家・株式会社奏代表]西尾裕美子にしおゆみこさん

[箏曲家・株式会社奏代表]西尾裕美子にしおゆみこさん

西尾裕美子さん
宇治市在住。箏曲家。クラシック・ロック・ポップといった多方面の音楽経験をいかし、箏・三味線を奏でる。古典および現代曲の演奏にとどまらず、陶芸・茶道・華道とのコラボレーションといった試みも。2017年に「奏株式会社」(京都市左京区岡崎円勝寺町55-36)を立ち上げ、美しい日本伝統文化を国内外へと広げる活動を行なっている。【HP】https://kanadekyoto.com

平安神宮のほど近く、白川沿いにある小さな一軒家が「奏」の拠点。西尾裕美子さんは“伝統文化を、もっと身近に、もっと楽しくをコンセプトに、少人数制のお箏(こと)や三味線の体験講座などを実施しています。

「お抹茶、大好きです。こちらでの講座やお稽古の後には必ず小さなお茶会の時間を設けています」と、素敵な着物姿で迎えてくれた西尾さん。意外にも20代後半までは地元・東京でバンド活動に夢中で、日本文化とはあまり縁がない暮らしをしていたのだとか。「当時の友人は、この姿を見て驚くんですよ」と笑います。

西尾裕美子さん
1.お箏を演奏する西尾さん。2022年1月、「奏」主催のコンサートを開催予定。演奏会やライブも、お客様に抹茶をもてなして楽しむのが好きだという。2.3.干菓子のひとつに、お箏にゆかりのある「八つ橋」と宇治の「朝日焼」の印花文のお茶碗は、お茶の葉と花の模様。お客様に出すときは、作法を意識して出しますが、ひとりで楽しむときは……。

西尾さんが本格的にお茶やお箏を学び始めたのは結婚を機に京都・宇治市へ移り住んでからのこと。その頃に始めた国際交流のボランティア活動に役立てば……くらいのつもりが、いつしか奥深い世界にのめりこんでいったといいます。その後、仕事漬けの日々を過ごした時期にも、お茶やお箏に心を癒されたそう。今や自宅の戸棚にはお道具がセットされていて、1日に1回はお抹茶をいただくのが当たり前の、欠かせない存在に。

奏の小さなお茶会はおもてなしの意味とともに、かつての自分のように、“和文化の深みにはまる入り口になれたらとの思いがあるといいます。

「そして、一番おいしい抹茶はね」と秘密を明かすように、西尾さん。

「お客様が帰られたあと、こっそりお棗(なつめ)に残った抹茶を使って点てる一服は格別です。皆さんの楽しそうだった様子を思い出しながらほっこりとするのが、至福のひとときです」

「健康を意識して、リラックス時間には
健康成分豊富な抹茶をよく飲んでいます」

[仏像イラストレーター]小酒句未果こさけくみかさん

[仏像イラストレーター]小酒句未果こさけくみかさん

小酒句未果さん
京都太秦の生まれ。専門学校を出て会社勤務後、イラスト学校に通ってイラストレーターとしてデビュー。『月刊京都』連載の「京都ぷらっと日記」のほか、『なぞるだけで心が癒やされる 写仏入門』(宝島社)、『幸運を引き寄せる! 龍神なぞり描き』(宝島社)、『なぞりがきで描く鳥獣戯画』(英和出版社)など著書多数。

イラストレーターとして活躍する小酒句未果さんは、京都生まれの京都育ち。京都でなじみの観光雑誌『月刊京都』に連載して17年になる「京都ぷらっと日記」のイラストエッセイでも活躍されています。また、仏画のなぞり描きブームから、最近は仏像を描く仕事も多く、締め切り前は部屋に籠りきりとなります。そんな小酒さんにとって午後のお茶タイムはリラックスとリフレッシュの時間です。

「煎茶やコーヒーということもありますが最近はお抹茶が多いです。抹茶は健康にもよいといいますよね」と小酒さん。天神市(てんじんいち)で物色したお気に入りの茶器に抹茶をササッと入れ、手慣れた手つきで茶筌を動かします。抹茶のおともはデーツにナッツ。「デーツはビタミンEが多いし、ナッツもミネラルやビタミン、健康によい脂質が摂れるし」。朝食は食べず、ヨガや散歩をしたらすぐに仕事開始。気づくと昼になっていて昼食をしっかり食べ、午後3時頃に休憩も兼ねてお茶タイムとなります。食材にもこだわり、手づくりが基本の健康志向の暮らしで、ここ数年は風邪をひいたこともないとか。

小酒句未果さん
1.画用紙、2B鉛筆、練り消しゴムが基本の仕事道具。それらで描いた絵をパソコンに取り込んで、彩色は画像処理ソフトで行なう。2.お抹茶のおともは和菓子のこともあるが、最近はデーツやナッツなど乾燥フルーツとナッツを取り合せる。3.最近は仏像画の依頼が多く、写仏やなぞり描きの本の出版は、すでに15冊になる。

小酒さんは茶道を習ったことはなく、以前はロックにダンスとポップな現代カルチャー志向でした。でもお寺訪問でお抹茶を飲み、北野天満宮の北野大茶湯や友人の茶会に出席するうちに「日本人として、抹茶を点てるくらいできんとあかんな」と思い、動画などを参考に抹茶を点てるようになったのだとか。3年前からは取材で体験した長唄三味線にハマり、毎日の稽古も欠かしません。

「仏画の仕事もそうですが、いつの間にか日本の伝統に囲まれています」と笑う小酒さん。今後、「お茶と写仏を楽しむ会」なども開催予定。仏像イラストレーターとして更なる境地を目指したいそうです。

細かい泡を点てて飲むのが私の好み.
深い緑色の抹茶の見た目にも癒やされています

[真言宗泉涌寺派別格本山雲龍院 住職]市橋朋幸いちはしほうこうさん

[真言宗泉涌寺派別格本山雲龍院 住職]市橋朋幸いちはしほうこうさん

市橋朋幸さん
京都生まれ。現在は、皇室ゆかりの写経道場として親しまれている雲龍院で住職を務める。また、総本山御寺泉涌寺総務部長も務める。御寺泉涌寺 別院 雲龍院【住所】京都市東山区泉涌寺山内町36【電話】075-541-3916【拝観時間】9:00 〜17:00 (16:30受付終了)【拝観料】400円【HP】https://www.unryuin.jp

皇室とゆかり深い御寺(せんにゅうじ)のさらに一番奥にある、同寺の別院、雲龍院。南北朝時代、後光厳(ごこうごん)天皇の勅願でつくられた寺で、深い緑に包まれています。

こちらの寺のご住職、市橋朋幸さんは、小さな頃からお抹茶に親しんできました。山科の隨心院で育ち、祖父が雲龍院の住職だったため、市橋さんが跡を継ぎました。

「隨心院は梅の花でもよく知られ、観梅会の頃は拝観される方も多く、おもてなしのために、小さい頃からお抹茶を点てる手伝いをよくしていたんです。お茶の先生のところにお稽古に行ったわけではなく、両親から自然に教えられたという感じでしょうか」

市橋朋幸さん
雲龍院ではお抹茶がいただける。真言宗泉涌寺派の別格本山。本尊は本堂龍華殿に安置されている薬師三尊像で、西国薬師霊場四十番札所になっている。重要文化財の本堂をはじめ、緑豊かな庭園や書院の「悟りの窓」、色紙の中の景色を愛でるような「蓮華の間」など見どころが多い。

毎日、朝、6時半に本堂でお勤めをして、本山(泉涌寺)に行き、雲龍院と行ったり来たりという忙しい日々を過ごす中で、ご住職が大切にしているのが、お抹茶を一服するひととき。毎日というわけにはいきませんが、時間を見つけては、お抹茶をゆっくりと点てて、静かにいただきます。

「私は泡を細やかに美しく点てるように意識しているのですが、見た目も美しいお抹茶は、口あたりもよく、深みと甘みがあって、心身がすっと落ち着きます。お菓子をいただいてお抹茶で一服する時間が、私のリフレッシュタイムですね」

雲龍院は庭園と写経の寺としてもよく知られています。心静かに写経をした後、美しい庭を眺めながら、至福の一服に違いありません。

「戦国時代、茶室は作戦を練る場所でもあったと聞きます。頭をクリアにして、落ち着いて話をするのに、お茶は欠かせない存在だったのでしょうね。多忙なときほど、ゆっくりとお抹茶を味わっていただきたいと思います」

おわりに

茶道だけではなく、日常の飲み物としてもおいしい抹茶。今回お話しをきいた3人も、日常的に抹茶を楽しんでいました。ぜひ、煎茶やコーヒーなどと同じように、抹茶も気軽に楽しんでみてください。

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(写真 津久井珠美/ライター 市野亜由美・中岡ひろみ・郡麻江)

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取材・文=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。