和文化を愛する京都の4人に聞く、新年のお茶時間の楽しみ方

お茶時間とひとくちにいっても、そのスタイルは人それぞれ。老舗餅屋から忍者まで!?  今回は、仕事で和文化に携わっているお茶好き4名の方にお話をうかがいました。新年ならではのエピソードや、今後への想いなど、〝四者四様〟お茶のある素敵な暮らしをお届けします。

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愛するのは!和菓子

「お正月は工場いっぱいに ほうじ茶の香りが充ちています」

やわた走井餅老舗 井口香苗さん

やわた走井餅老舗 井口香苗さん

やわた走井餅老舗 井口香苗さん
[ profile ] 創業1764年の「やわた走井餅老舗」10代目の長女として生まれ、幼い頃から石清水八幡宮を遊び場として育つ。中学時代に茶道と華道を習い始め、石清水八幡宮や松花堂庭園でのお茶会に参加するように。随時更新中の「やわた走井餅老舗のブログ」(http://blog.yawata-hashiriimochi.com)では、お店の商品情報とともに地元・八幡やお茶の魅力を発信している。 「もちろんお抹茶も好きです。いただくとスッと気持ちが切り替わると同時に、プライベートでほっとできる時間でもあります」と井口さん。

258年もの間親しまれた味を守り、伝えていくのが仕事

「お正月といえば、大きな茶釜でほうじ茶がぐらぐらと煮出され、その香りが工場いっぱいに立ち込めている様子がまず思い浮かびます」と話してくれたのは、「やわた走井餅老舗」11代目の井口香苗さん。

全国屈指の厄除け参りの神社としてあつく信仰される「石清水八幡宮」門前にある同店にとって、年明けから節分までは最も忙しい時期。中でも三が日には、名物の「走井餅」を求める人がひっきりなしに訪れます。

やわた走井餅老舗
左/店内に飾られた旅籠時代の「講中札」が、江戸時代中期に創業した歴史をうかがわせる。右/煎茶やお抹茶といっしょにお餅が2ついただける「走井餅セット」(500円~)。

「早朝からお餅をたくさんつくって。お客さんにお出しするほうじ茶も、普段は朝に一回つくるところを常に沸かし続けないと追いつきません。私も中学生の頃にはお店を手伝うようになり、お店で迎えるのが我が家のお正月です」と笑います。

また、2008年に家業を継ぐことを決め、見習いとしてスタートした日から、井口さんにとってほうじ茶は、朝に欠かさず飲むものになりました。滋賀県産の羽二重米を杵つきした餅に、北海道産小豆を炊いたこし餡を手包みする走井餅は、その日に販売する分をつくります。作業が一段落したら、お茶とともに検食タイムを実施。258年もの間、愛されてきた味を守るための重要な仕事のひとつです。

「お店の休みと、出張などを除いて、この14年間、私がお餅をつくらなかった日はありません。ここでしか食べられない門前菓子としての味を守り、伝えていくのが大切な仕事だと思っています」

やわた走井餅老舗

やわた走井餅老舗

【住所】京都府八幡市八幡高坊19
【電話】075-981-0154
【営業時間】9:00~17:30
※喫茶のL.O.は17:00
【定休日】月曜(祝日の場合は営業、翌日休)
【HP】http://www.yawata-hashiriimochi.com

愛するのは!円相

「さりげないお茶のやさしさは 私の作品の世界観と通じます」

アトリエ「en」maruさん

アトリエ「en」maruさん

<strong><span style="color: #c88c0e;">[ profile ]</span></strong>1984年生まれ。“人生や感情の起伏を円(縁)で表現し続けるアーティスト”として2009年より活動を開始。2018年に、アトリエ「en(えん)」を開く。「繋がっていく、広がっていく御縁をイメージし、紙やキャンバスにかぎらず、洋服や食器類などにも◯を描き宿しています」。maruさんは、お茶どころの愛知県西尾市出身。お茶を淹れるのは日常的で、茶葉とお抹茶はいつも自宅に切らさない。ないとドキドキしてしまうほどだとか。<a href="https://www.aoien.info">https://www.aoien.info</a> 
工房:あじき路地北①「en」【住所】京都市東山区山城町284【開en】水~日曜の11~18時 ※アトリエ、作品をご覧いただけます。
[ profile ]1984年生まれ。“人生や感情の起伏を円(縁)で表現し続けるアーティスト”として2009年より活動を開始。2018年に、アトリエ「en(えん)」を開く。「繋がっていく、広がっていく御縁をイメージし、紙やキャンバスにかぎらず、洋服や食器類などにも◯を描き宿しています」。maruさんは、お茶どころの愛知県西尾市出身。お茶を淹れるのは日常的で、茶葉とお抹茶はいつも自宅に切らさない。ないとドキドキしてしまうほどだとか。https://www.aoien.info  工房:あじき路地北①「en」【住所】京都市東山区山城町284【開en】水~日曜の11~18時 ※アトリエ、作品をご覧いただけます。

お抹茶を点てるとき、円を描くような所作があるのも興味深くて

東山区にある築120年以上の町家長屋「あじき路地」。20〜30代の若手作家たちが入居し、個性的な工房が軒を連ねることで知られるこちらの一角に、maruさんが引っ越してきたのは2021年4月のことでした。

「〝円満〟という言葉に〝円=○(えん)〟という文字が含まれているように、○(まる)にはすべてを享受し、やさしく包み込んでくれる強さや愛が宿っているように感じます。私は○という形に出合い、平和の象徴だとも感じ、その魅力に惹きつけられた感覚を礎に、歌ったり、描いたり、舞ったりと、全身全霊で表現を行なっています」と穏やかに話すmaruさん。

お茶菓子に選んだのは、近所のお気に入りの店「千代(ちしろ)豆腐」のおぼろ豆腐。
お茶菓子に選んだのは、近所のお気に入りの店「千代(ちしろ)豆腐」のおぼろ豆腐。

けれど、4年前にアーティストを本業にと決意するまでは迷いや葛藤に苦しんだといいます。

「会社勤めが長続きせず、勝手に世間体を気にしたり、劣等感を持ったり……。今となっては、そこを経て、自分を認められるようになったのが大きいです」

現在は、心地よい空間で思いのままに制作に打ち込む日々。

左/このアトリエでつくられる最大限の作品に挑戦中。60mもの長さがある綿の反物に、白い絵の具で描く。右/2018年に完成した大型の作品「アラタマル」。
左/このアトリエでつくられる最大限の作品に挑戦中。60mもの長さがある綿の反物に、白い絵の具で描く。右/2018年に完成した大型の作品「アラタマル」。
良縁結びをテーマにした「水引きリボン」の作品たちはプレゼントなどにも好評だとか。耐熱ペアマグは、16,500円~(オーダーも可)。
良縁結びをテーマにした「水引きリボン」の作品たちはプレゼントなどにも好評だとか。耐熱ペアマグは、16,500円~(オーダーも可)。

「お抹茶は、毎日とはいわないまでもよく飲みます。お茶を点ておわったとき、円を描くようにして茶せんをおさめますよね。やっぱり○って、人が自然に求めている形なのかなと思ったりも。もちろん、何といってもお茶が単純に好き。ぎょうぎょうしくなく、そっと寄り添ってくれるお茶は、私の作品の世界観にも通じるように感じます」

愛するのは!忍者

「忍者に必要な平常心と緊張感の 両立に、お茶は役立ちます」

「NINJA DOJO and STORE」代表 市川伊蔵さん

「NINJA DOJO and STORE」代表 市川伊蔵さん

<strong><span style="color: #c88c0e;">[ profile ]</sapn></strong>伊賀の山里に生まれ、幼少より伊賀の野山を駆け巡り、身体能力・感覚を鍛え、多種のスポーツにも打ち込む。
高校時代からアート、クリエイティブに傾倒し、クリエイターの道へ。40歳を機に忍者に目覚め、武道、忍術、
和文化を学んだ経験と英語のスキルをいかし、2015年に忍術修行道場「NINJA DOJO and STORE」をオープン。
また忍道四段の師範として、忍道と忍者文化普及に務める。身長180㎝以上で、存在感がある市川さん。「よく、『忍んでへんやん!』とからかわれることもあります(笑)」と、気さくなお人柄も魅力。
[ profile ]伊賀の山里に生まれ、幼少より伊賀の野山を駆け巡り、身体能力・感覚を鍛え、多種のスポーツにも打ち込む。 高校時代からアート、クリエイティブに傾倒し、クリエイターの道へ。40歳を機に忍者に目覚め、武道、忍術、 和文化を学んだ経験と英語のスキルをいかし、2015年に忍術修行道場「NINJA DOJO and STORE」をオープン。 また忍道四段の師範として、忍道と忍者文化普及に務める。身長180㎝以上で、存在感がある市川さん。「よく、『忍んでへんやん!』とからかわれることもあります(笑)」と、気さくなお人柄も魅力。

学生時代に出合った煎茶道。今になって、その奥深さを実感

こんなところに、まさかの忍者道場!? と、驚くような京都の街中のビル内で「NINJA DOJO and STORE」を営む市川伊蔵さん。

伊賀出身……ということは、幼い頃から忍者に憧れていたのかと思いきや、「まさか自分が忍者になるとは思っていなかったですね」とのこと。

京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)を卒業後の17年間、デザイナーとして活躍し、転機が訪れたのは40代にさしかかった頃。培ったスキルを人のため、社会のために使える道はないかと模索するうち、忍者文化を世界に広めることが使命だと感じたと振り返ります。

「地元ながら知らないことも多く、改めて習おうと思いましたが、実際に教えてくれるところがない。それで、自分なりに研究していく過程で、どんどんと惹かれていきました」

左/京都の「亀屋良長」のお菓子。この日のお茶には、店先で汲める「醒ヶ井水」を使用。右/ふだんは急須で日本茶を楽しむことも多い。少し気軽さもあるもてなしを、というときはこうしたセットで。
左/京都の「亀屋良長」のお菓子。この日のお茶には、店先で汲める「醒ヶ井水」を使用。右/ふだんは急須で日本茶を楽しむことも多い。少し気軽さもあるもてなしを、というときはこうしたセットで。

小川流の煎茶道とも、実は大学時代の授業で出合っていたものの、当時は入門に至らず。それが今、あらためて学ぶことがとても楽しいのだといいます。

「お茶は、飲むと覚醒しつつ、リラックスできるという特殊な精神状態にもっていけるツールでもありますね」と市川さん。日本文化、伝統芸能、武術など、昔から培われてきたものには共通する部分も多いのではと思っていたものの、実際にやってみると、さらにその奥深さに驚いたそう。

「少し大げさかもしれませんが」と前置きし、「今後も忍者文化を通して、世界に、和の精神、調和共存の心、争わず解決する術、生き抜く知恵を広め、世界の平和と心豊かな生活に少しでも役立ちたいと思っています」と話す姿はりりしく、さすがと思わされます。

道場は忍者屋敷になっていて、どんでん返しなどの仕掛けあり。本物の鉄製手裏剣を使った体験もできる。
道場は忍者屋敷になっていて、どんでん返しなどの仕掛けあり。本物の鉄製手裏剣を使った体験もできる。

【住所】京都市下京区白楽天町5282F
【電話】075-778-1990
【営業時間】10:00〜18:00
【定休日】なし(要予約)
【HP】https://ninjadojoandstore.com

愛するのは!漆

「子育ても、漆も、お茶も、 のんびりと、マイペースに楽しみます」

漆作家 清水愛さん

漆作家 清水愛さん

<strong><span style="color: #c88c0e;">[ profile ]</span></strong>京都府南丹市在住。漆作家。「今を生きる作家の手で、漆の文化を未来に伝えたい」と2015年に「urujyu」を創業。
現在、シンプルでナチュラルな金継ぎを通して、漆文化や技術の普及を目指し、また、国産漆の植林活動を行なっている。
左から愛さん、4歳の月日(つきひ)くん、2歳の陽月(ひづき)ちゃん、夫の昇臣さん。黒猫のウルは人見知りで、どこかへ隠れてしまったとのこと。<a href="https://urujyu.com">https://urujyu.com</a>
[ profile ]京都府南丹市在住。漆作家。「今を生きる作家の手で、漆の文化を未来に伝えたい」と2015年に「urujyu」を創業。 現在、シンプルでナチュラルな金継ぎを通して、漆文化や技術の普及を目指し、また、国産漆の植林活動を行なっている。 左から愛さん、4歳の月日(つきひ)くん、2歳の陽月(ひづき)ちゃん、夫の昇臣さん。黒猫のウルは人見知りで、どこかへ隠れてしまったとのこと。https://urujyu.com

お茶のお店を開いたり作品づくりも再開へ。少しずつ計画中

漆作家・清水愛さんの自宅へ、取材にお邪魔したのは、とある日曜日の昼下がりのことでした。美しい美山の風景と、駆け回る子どもたちの笑い声、ゆったりとした雰囲気がマッチしていて、まるで絵本の世界に迷い込んだかのよう!

「子どもたちが小さいので、いつもゆっくりとはいきませんが、休みの日には縁側や庭でおやつと一緒にお茶を楽しんでいます」と愛さん。夫の昇臣(しょうじ)さんが、昔、中国茶のカフェを開いていたほどのお茶好きで、6年前に結婚してから、こまめにお茶を淹れてもらううち、「お茶のある暮らしになじんできた」のだといいます。

清水家の手づくりおやつ。季節の自家製ジャムを入れた米粉マフィンは愛さんお手製。ちなみにクッキーやパウンドケーキづくりは昇臣さんの担当なのだとか。
清水家の手づくりおやつ。季節の自家製ジャムを入れた米粉マフィンは愛さんお手製。ちなみにクッキーやパウンドケーキづくりは昇臣さんの担当なのだとか。

一昨年の8月、美山に引っ越して落ち着いてきたこともあり、以前のカフェの道具などを使い、予約制でお菓子とお茶を楽しめる空間づくりを計画中だとか。

「出産後は漆の仕事は、金継ぎにしぼって、依頼品の修理などをメインに進めてきました。そろそろ作家としての活動も再開し、今年は展覧会なども始動する予定です」

離れの「美山アトリエ」では金継ぎ教室を実施。参加者には、金継ぎをした器でお茶を出し、そのよさを味わってもらう。
離れの「美山アトリエ」では金継ぎ教室を実施。参加者には、金継ぎをした器でお茶を出し、そのよさを味わってもらう。
左/愛さんの作品。「月の器」と名付けた皿と「雲の象(かたち)」というカップ。右/おせちに使おうと、ご近所さんからもらった黒枝豆を家の軒下で乾燥中。
左/愛さんの作品。「月の器」と名付けた皿と「雲の象(かたち)」というカップ。右/おせちに使おうと、ご近所さんからもらった黒枝豆を家の軒下で乾燥中。

そんな愛さんの、ライフワークである国産漆の植林活動も着々と進行中。家の周りに約10本、近所に借りた土地に50本ほどの木を植えて世話をしています。今はまだ私たちの背丈よりも低い木が、10年後には2階の屋根くらいの高さに育ち、漆が掻けるようになるそうです。

「その頃には子どもたちの手が離れているかな。まずは子育てに合せて、のんびりマイペースに、仕事していきます」との言葉や、愛さんのやさしい声に癒されるひとときでした。

四者四様のお茶時間、いかがだったでしょうか。特に寒い冬は、急須で淹れたあたたかいお茶をいただく時間が至福ですよね

みなさまもぜひご自宅で思い思いのお茶時間をお楽しみください。

(写真 石川奈都子 津久井珠美 / 文 市野亜由美)

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企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。