京都で人気のお菓子教室主宰おすすめ!煎茶に合せたい意外な洋菓子

いつも予約でいっぱい、「お菓子教室シトロン」を主宰する、実力派お菓子作家の山本稔子さんが若蒸し茶、深蒸し茶、かぶせ茶、茎茶の4種の繊細で個性的な煎茶に出合ったら。「日本茶には和菓子と思いがちですが、洋菓子も合いますよ」という山本さんに、お茶と洋菓子を組合せるコツをうかがいました。

お菓子作家 山本稔子さん

お菓子作家
山本 稔子さん

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お菓子教室を主宰する傍ら、フレンチスタイルの惣菜店やレストランを次々と手掛け人気を博す。現在はレッスンに主軸を置きながら、お菓子セットの販売や出張イベントへの参加など、幅広く活動。フランスとお菓子、お酒を愛し、自らを「世話焼きの京都人」と評す。

お菓子教室シトロン
【住所】京都市下京区白楽天町529
【HP】http://www.citron-kyoto.com/ecole

「洋菓子と日本茶」は、意外にもぴたりとはまる組合せ!

忙しい商売人の家で育ったため、お茶は「つくり置きを冷蔵庫から出して飲むもの」でした。茶碗で温かいお茶を飲んだ記憶はほとんどありません。大人になってからも仕事に追われ、「お茶の時間」とは無縁の日々。自分のためにお茶を淹れる心の余裕は持てませんでした。

そんな生活が一変したのは数年前。仕事を整理し、お菓子教室に専念できるようになったことと、結婚がきっかけです。休みの日に家でごはんを食べ、食後に熱いお茶を淹れる…そんなリラックスした時間をようやく楽しめるようになりました。

和食料理人の夫と一緒に、いろんなお茶を試す機会も増えました。最近はレッスン後の試食タイムに日本茶を淹れることもしばしば。紅茶やコーヒーとは違う新鮮さがあり、生徒さんたちと変化に富んだマッチングを楽しんでいます。

私たちは習慣的に「洋菓子にはコーヒーまたは紅茶、和菓子には日本茶」と決めつけてしまいがちですが、実際に試してみると「洋菓子と日本茶」も悪くないものです。それどころか、ぴたりとはまる組合せも少なくないんです。

香ばしいほうじ茶には焼き菓子が合いますし、意外と「煎茶にチーズ」もおもしろい。それからナッツとジャム、この2つは煎茶との相性が抜群です。種類が多く、個性もさまざまなナッツはなにかと出番の多い食材。特にアーモンドパウダーはお菓子づくりに欠かせない材料なので、煎茶に合う洋菓子は多いのかもしれません。思うに、煎茶には透き通るような「旨み」や「苦み」がありますよね。それが洋菓子のこっくりした「旨み」や「甘み」とどのように反応するのか、その見極めが重要です。また洋菓子にはバターや洋酒、果物などが使われるため「香り」も大切な要素。お茶に合せる洋菓子を選ぶ際には「旨み、苦み、甘み、香り」のバランスをとることがポイントになりそうです。

私にとって新しいレシピを考えることは、ライフワークのひとつです。生地、クリーム、フルーツやジャムなどを組合せ、新しいお菓子をつくり上げる…大変ですが、わくわくと胸が躍る作業です。四種類の煎茶を飲み分け、お菓子との組合せを提案する今回の試みも、そんな創作活動の延長線上にあるもの。次項からの提案が、楽しくお茶うけを選ぶ道しるべになれば幸いです。

深蒸し茶とブルーチーズマカロン
若蒸し茶とブルーチーズマカロン

太い旨みの力強さを迎えるのは、甘じょっぱさ

一般的に爽やかで香り高いといわれる若蒸しの煎茶ですが、今回飲んだお茶で私の印象は少し変わりました。口に含むと心地よい苦みのあとに、太い旨みが立ち上がってくる。まるで丁寧にひいた「おだし」のようなコクと旨み。これほどの力強さを迎えるには、お菓子にも相応の強さが必要です。そこで思いついたのが、ブルーチーズクリームをサンドしたマカロンです。

 2枚のマカロンを重ねたパリ風マカロンは、しっかり甘い伝統的なフランス菓子。卵白と粉糖、アーモンドパウダーでつくる生地はねっとりと甘く、舌の上で溶けるにつれてブルーチーズクリームの塩気が追いかけてきます。鼻へ抜ける青カビ特有の香りと乳製品のコク、絶妙に絡む甘さと塩味をしばし楽しんだら、お茶をひと口。するとキレのいい苦みが甘さを断ち切り、だしのような深いコクが濃厚なチーズをしっかり受け止めてくれます。力強さが釣り合うことで、互いのおいしさを高め合う感じでしょうか。

深蒸し茶とコーヒーフィナンシェ
深蒸し茶とコーヒーフィナンシェ

お茶のテンションを上げるのは、持続するほろ苦さ

色鮮やかで濃厚な旨みが特長とされる深蒸しの煎茶。けれど私は4種類の煎茶の中で一番「おとなしい」お茶だと感じました。抑揚が少なく、心地よい苦みが同じ調子で長く続く。裏を返せば何にでも合せやすいともいえるのですが、ならば逆に「お菓子でお茶のテンション(気分)を上げよう」と思いました。

そこで選んだのはバターケーキの一種で、濃厚な味わいのフィナンシェ。今回は「持続する苦み」に着目。コーヒーやキャラメルで風味づけしたフィナンシェをつくりました。

コーヒーとキャラメルの苦み、焦がしバターの香り、生地の香ばしさ…ほろ苦いあと味が消えないうちに「物静かな友人」ならぬ深蒸し茶をひと口、ふた口。するとさっきまでおとなしかったお茶が「おしゃべりな友人」に変貌するのがわかります。キャラメリゼ(焦がし)の技法を使うクレームブリュレやカラメルを添えたプリンも合いますよ。

かぶせ茶と桜海老とアオサのメレンゲ
かぶせ茶と桜海老とアオサのメレンゲ

力強い味わいと苦みは引いては寄せる磯の香りで

旨みをギュッと凝縮させたかぶせ茶には、煎茶らしい青い味を強く感じます。力強い味わいと、あとからくる厚みのある苦み。この鮮烈な個性には、やはり同等の力強さで応じたい。そこでかぶせ茶には「磯の香り」を合せることにしました。

卵白と粉糖でつくる、スナック菓子のようなさくさくのメレンゲクッキー。軽い食感と磯の風味——この組合せ、何かを連想しませんか? 実は「えび満月」という昔からあるおせんべいにヒントを得たものなんです。泡立てた卵白に乾燥小海老とあおさ海苔を加え、さっくり焼き上げました。かじると海の香りが口いっぱいに広がり、徐々に小海老の香ばしさや甲殻類の旨みがメレンゲの甘さとひとつになっていく。その余韻が消えないうちにお茶を含むと…お茶に潜む「海っぽさ」が引き出され、落ち着きかけた磯の香りが再び勢いを取り戻すのです! 香りの掛け算が楽しい組合せです。

茎茶と洋梨のタルト
茎茶と洋梨のタルト

万人に愛されるふくよかさには、定番の焼き菓子

お茶の茎部分からつくられる茎茶は、すがすがしい香りとほのかな甘みが持ち味。バランスがよく、穏やかなまるい味が楽しめます。こういう素直なお茶には定番のケーキやタルトがよく合いますね。中でもクセがなく、誰からも愛される洋梨のタルトは、茎茶のほっこりしたイメージとぴったり重なります。

冒頭でご紹介したように、ナッツやジャムは煎茶との相性が抜群なのですが、洋梨のタルトはまさにその両方を使ったお菓子です。香ばしいタルトの台にアーモンドクリームと洋梨のコンポートを敷き詰め、アプリコットジャムでつややかに仕上げた洋梨のタルト。アーモンドクリームのこっくりとした味わいとアプリコットジャムの爽やかな酸味が、茎茶の清涼感にやさしく寄り添います。

ふっくらした茎茶の苦みは甘酸っぱいジャムや濃厚なバターをうまくまとめてくれるので、パウンドケーキにフランボワーズジャムを挟んだビクトリアサンドイッチなど、伝統的なケーキのおともに最適です。

おわりに

「煎茶には和菓子」という先入観から抜け出して、ぜひ今回の組合せをお試しください。日本茶と洋菓子の相性のよさに驚かれるはず。いつものお茶うけに、ちょっと変化をつけるだけで、日本茶の楽しみ方がさらに広がります。

(写真 武甕育子 / 文 鈴木敦子)

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編集=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。