新茶の季節に徹底レポート!製茶工程、淹れ方、保存法を総まとめ

5月の声が聞こえてくると、お茶処、京都・宇治田原町は新茶の熱気に包まれます。茶畑で育った新芽は、どのようにしてお茶に姿を変えるのでしょうか。旬の味わいを活かしたおいしい淹れ方や最適な保存方法まで、新茶の季節を迎えた今こそ知っておきたい情報が満載!

新茶の葉

豊かな自然からの季節の贈り物

厳しい冬の寒さを越え、燦々と降り注ぐ初夏の日光を浴びて一斉に芽吹きだす新芽。広大な茶畑が瑞々しい生命力にあふれ、鮮やかな新緑一色に染まると、いよいよ新茶の季節を迎えます。

「新茶」という言葉を聞くと、思わず心が躍ります。昔と違い、今ではいろいろな食品が年中出回り、いつでも手に入るため、便利な反面、季節感を感じづらくなっています。そんな現代でも新茶は1年にたった一度、この時期だけにしか味わえない、まさに季節の贈り物です。また「新茶」には「初物」という意味が込められています。その初物縁起から、新茶を飲むと、1年を無病息災で過ごせる、長生きできるなどという言い伝えもあります。新茶は旬の味であるとともに、縁起物として特別な意味を持っており、昔から大切にしてきた季節感やお茶に対する思いが込められているのです。

茶畑

お茶の郷は、町中が活気にあふれています

「夏も近づく八十八夜♪」で始まる唱歌に歌われる「八十八夜」とは、立春から数えて88日目にあたる頃を指します。ちょうどこの頃が、茶栽培の大敵である遅霜(おそじも)の心配もほとんどなくなり、安定した気候の中で茶摘みができる目安の日とされてきました。今年の八十八夜は5月2日です。この時期になると、茶農家は早朝から夜遅くまで、休む間もなく茶摘みに、製茶にと大忙し。1年で最も慌ただしい日々が続きます。摘み取りが早すぎても遅すぎても品質に影響が出てしまいます。新芽の成長具合を見極め、最も適した収穫期を判断するのは、茶農家さんの重要な仕事です。それでも、1年間手塩にかけて育てた新芽がようやく新茶になるとあって、忙しい中にもどこか誇らしく、喜びに満ちた熱気が漂います。

新茶づくりは、なんといっても新芽を摘み取ることから始まります。昔は一つひとつ手摘みされていましたが、今では摘採機(てきさいき)という専用の機械による刈り取りが主流です。茶畑の狭い畝(うね)と畝の間を巧みに機械を操りながら進むと、摘採機に取り付けられた大きな袋がみるみるうちに新芽で一杯に。こうして刈り取った新芽は新鮮なうちの加工が何よりも大切で、すぐさま近くの工場へ運ばれ、その日のうちに製茶されるのです。

新芽を摘み取る

製茶工場に潜入!新茶ができるまで

茶畑ですくすくと育った新芽が、一体どのようにして普段見慣れた茶葉に姿を変えるのでしょうか。おいしい新茶に仕上げる製茶の工程をご紹介します。

工程1

摘み取ったら急いで製茶工場へ

刈り取った大量の生葉を一時的に入れておく茶舟(ちゃぶね)と呼ばれる通気性のある竹製の籠。蒸す順番を待つ。

三角矢印
工程2

蒸しの工程

茶葉に含まれる酵素の働きによる発酵(酸化)を防ぐため、茶葉にまんべんなく蒸気をあてていく工程。新茶の命ともいえる香りを左右する重要な工程で、細心の注意を払って蒸し上げていく。

三角矢印
工程3

粗揉みの工程

蒸し上がった茶葉に、熱風をあてて攪拌しながら揉み、水分を均一に蒸発させ、粗く揉みほぐす。

三角矢印
工程4

加熱せず揉む工程

ローラーで圧力をかけながら、大きく円を描くように茶葉を転がし、茶葉の水分のムラをなくしていく。揉みの工程の中で、唯一加熱がない工程。

三角矢印
工程5

乾燥させながら揉む工程

粗揉と同じく、熱風をあてながら揉む工程。ダマになった茶葉を解きほぐし細く撚っていく。

三角矢印
工程6

揉みながら形を整える工程

揉みの工程の仕上げ。茶葉に圧力をかける重しを調整して、前後に力を加える。手揉みの感覚を再現した精揉機で葉を揉み、真っすぐに伸びた針のように美しく形づくりながら撚り上げ、乾燥させる。

三角矢印
工程7

荒茶乾燥

茶葉を貯蔵できるように、乾燥機で90℃ほどの熱風をあてて仕上げ乾燥。水分を飛ばし、特有の芳香を引き出したら荒茶の完成。

三角矢印
荒茶の完成!

新芽は鮮度が命。休む間もなく、次々と工程を経る

製茶工場に集められた大量の新芽。おいしい新茶に仕上げるために、まずは「蒸熱(じょうねつ)」という蒸しの工程から始まります。この蒸熱は、新茶づくりにおいて、最も重要な工程です。その理由は、新芽の性質にあります。お茶の葉は摘み取ったその瞬間から発酵(酸化)が始まります。そのため、たっぷりの蒸気をあてて蒸すことで、葉の発酵を止めるのです。また、蒸すことで生葉特有の青臭みをとるとともに、日本茶独特の鮮やかな緑色と爽やかな香気、旨みを守っているのです。この蒸し時間の長短によって、新茶の味や香り、水色といった基本的な性格が決まります。

いったん蒸熱が始まると、途中で工程を止めるわけにはいきません。蒸し上がった茶葉は粗揉みの「粗揉(そじゅう)」、加熱せずに揉む「揉捻(じゅうねん)」、乾燥させながら揉む「中揉(ちゅうじゅう)」、揉みながら形を整える「精揉(せいじゅう)」という4段階にも及ぶ「揉み」の工程へと進みます。現在ではすべて機械化されていますが、蒸し具合や水分の状態、揉み加減など、各工程でお茶に精通した職人が、おいしさを引き出す最高のタイミングを瞬時に見極めながら製茶していきます。

揉みの工程を終えると、最後に茶葉を十分に乾燥させます。乾燥が足りないと、変色したり、保存状態が悪くなるので、水分を適切に取り除きます。こうして新茶の原形となる「荒茶(あらちゃ)」ができあがります。荒茶には茎や粉などが混ざり、葉の長さも不揃いなので、それらを取り除き、形を整える必要があります。ここからの工程は荒茶を仕入れた各茶問屋によって行なわれます。これが「仕上げ加工」です。そして最後に熱風や遠赤外線などで茶葉を加熱する火入れをして、ついに新茶の完成です。

スピード感と高い技術によって引き出された清々しい香り、冴え渡るような鮮やかな水色、爽やかな味。今年も1年に一度の旬の新茶が味わえる喜びを噛み締めながら、じっくりいただきましょう。

急須と湯呑

旬の味を存分に楽しむおいしいお茶の淹れ方

せっかく旬の新茶が手に入ったのだから、淹れ方にもこだわりたいものです。ここでは新茶がいっそうおいしく味わえる淹れ方を伝授します。

①湯呑を温める
沸騰させたお湯を湯呑に注ぐ

沸騰させたお湯を湯呑に注ぎ、湯呑を温めておく。同時に湯温を10℃ほど下げることができる。

三角矢印
②茶葉を多めに入れる
湯呑を温めている間に、急須に茶葉を入れる

湯呑を温めている間に、急須に茶葉を入れる。新茶の場合、少し多めにして、2人分で約10gほどの茶葉を使うのがポイント。

三角矢印
③湯呑のお湯を急須に入れる
温めていた湯呑のお湯を急須に戻す

温めていた湯呑のお湯を急須に戻す。そして急須の蓋をして、45秒〜1分間待つ。

三角矢印
④最後の一滴まで
濃さが均一になるよう、湯呑に交互に注ぎ分ける

最後の一滴までおいしさが詰まっているので、残さず注ぎ切る。

新茶の季節に覚えておきたいお茶の保存方法

旬の新茶も保存方法が悪ければ、そのおいしさはどんどんと損なわれてしまいます。茶葉の大敵である「空気」「光」「匂い移り」「温湿度」に気をつけて保存して、旬の新茶を最後までおいしくいただきましょう。

1空気に触れない

お茶はとてもデリケートな食品で、茶葉は開封した瞬間から香りが少しずつ抜けたり、味の劣化が進んでしまいます。開封したあとは、なるべく空気に触れないよう、茶筒や茶缶に移して保管するのがよいでしょう。茶缶は蓋がきちんと閉まり、中蓋があるもの、また、中に入れるお茶の量に対してあまり大きすぎないほうが、茶葉の品質を保ちやすいです。

茶筒
棚
2光を避ける

お茶は光(紫外線)、酸素、熱の影響を受けて変質してしまいます。直射日光や蛍光灯の光にあたることで酸化が進み、カテキンなどの栄養素が破壊されるだけでなく、茶葉の色も悪くなってしまいます。茶缶に入れたお茶は、調理器具や冷暖房器具から離し、茶箪笥などの暗く、温度変化が少ない場所に置くのが望ましいです。

棚
3冷蔵庫には入れない

空気に触れにくく、低温状態を保てますが、冷蔵庫での保存は避けましょう。お茶の葉には、周囲の匂いを吸収しやすい性質があります。冷蔵庫内の香りの強い食品と一緒に保存すると、その匂いを吸着してしまうため、お茶本来の味や香りに悪影響を及ぼします。さらに冷蔵庫や冷凍庫は、室温との温度差で茶葉に結露ができやすくなり、劣化につながります。

冷蔵庫
お茶の保存方法
4乾燥剤などを活用する

茶筒や茶缶がご家庭にない場合は、クリップをしてファスナー付の袋に入れることで対応は可能です。ただし、茶筒や茶缶にしても、完全に空気や水分を遮断できるものではありません。開け閉めの際に、わずかでも空気に触れてしまえば、お茶は少しずつ劣化します。そのため、お菓子や海苔などに入っている脱酸素剤や乾燥剤などを一緒に入れておくなどして、お茶の劣化を遅らせるのが理想です。一度開封したお茶は、できるだけ早く飲み切るようにしましょう。

お茶の保存方法

おわりに

1年間丁寧に育てた新芽が摘み取られ、待ち焦がれた新茶の季節が今年もやってきます。おいしい淹れ方や保存方法に気をつけながら、1年に一度の旬の味わいを存分に楽しみましょう!

(文/前田尚規 写真/平谷舞)

planmake_maeda

企画・構成=前田尚規
まえだなおき●月刊『茶の間」編集部員。3児の父。編集部内でのお茶博士(決して日本茶インストラクターではない)。その薄い知識をひけらかし、ブイブイ言わしているとかいないとか。休日に子どもたちと戯れるのが唯一の楽しみ。