新茶って最高!着物でバリバリ働く京都の3人のお茶時間に迫った!

いよいよ待ちに待った新茶の季節が到来です! 今回は和装が似合うまち京都で、着物で精力的に働く方たちのリラックスタイムにお邪魔してきました。お茶のことをこよなく愛し、楽しみ方を知っている3名の〝三者三様〟のお茶時間をご紹介します。

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「着物の扱いや立ち居振る舞いなど、 お茶を通じてさまざまな学びがありました」

Kimono Factory nono主宰 上田 瞳さん

上田瞳さん
プロフィール

うえだ ひとみ●京都市の大島紬のメーカー、株式会社枡儀(ますぎ)で、同社が展開するカジュアル着物のブランド、Kimono Factory nonoを、同社社長でご主人でもある哲也さんとともに主宰。「お茶と和菓子、特に京都の和菓子は、お互いの味を引き立て合いますね。お稽古にもまた通いたいです。息子も一緒に行けると、もっと楽しいかも」(上田さん)

上田瞳さんは、京都市で300年余り続く大島紬のメーカーの社長夫人で、新しいカジュアル着物のブランドの企画やデザインを手掛けています。そして、5歳になる息子さんの子育ても同時進行です。

そんな多忙な毎日を過ごしている上田さんの癒しのひとときは、お茶。

「慌ただしいときでも、夜、食事の後でいただくお茶でひと息入れます。これで1日の区切りがつく、という感じが確かにありますね。母が茶どころの静岡出身で、子どもの頃からお茶は身近な存在です。『緑茶にはビタミンCがたくさん。殺菌作用もあるのよ!』と聞かされて育ちました。この季節は、いい香りにホッとしています。新茶の香りって癒されますよね」

息子さんの成長とともに、だんだんと、お茶をゆっくりと楽しむ時間がつくれるようになってきたそうです。またお仕事にもお茶は役立っています。

「着物関係の仕事をするなら必ず習っておいたほうがいい、と勧められ茶道教室に通うことにしました。それまで誰かに着付けてもらわないと着物を着ることができませんでしたが、苦手ながら一人で着てお稽古に通うことでいろいろな気づきがありました」

季節の移ろいを感じる

茶道を通して、着物での立ち居振る舞いやお点前の所作にふさわしい着付けの仕方などが身についた上田さん。

「とはいえ、茶道の着物と日常で着物を着ることとはずいぶん違います。現代の生活スタイルの中で無理せず着物本来の美しさ、楽しさをお客様に感じていただきたい。日々スタッフと意見交換し、奮闘の毎日です」

サッシュベルト帯など

つくるのに手間がかかる衿元が、完成形で一体となった襦袢替わりのTシャツや、巻くだけで帯結びが完成し、背もたれに寄りかかっても着崩れない帯ベルトなど、今やいささか高くなった「着物」のハードルを確実に下げてくれるすてきなアイテムを上田さんは次々と開発しています。癒しを与えるお茶が、仕事にも新たな視点を与えてくれているのかもしれません。

kimono-factory-nono

Kimono Factory nono
【住所】京都市下京区綾小路通新町東入善長寺町143 マスギビル 株式会社枡儀 内
【電話】075-748-1005
【営業時間】10:00~16:00
【定休日】土曜・日曜・祝祭日
【HP】https://www.kimonofactory.com/

「心の底から癒されるお茶を飲んでほしい。 日本茶は、心身に効く万能薬です」

緑茶専門カフェ店主 辻󠄀本 高か代さん

辻本高か代さん
プロフィール

つじもと たかよ●緑茶専門カフェ、「茶亭 楓庵」店主。59歳で日本茶インストラクターの資格を取得。その魅力を積極的に発信中。茶葉そのものを味わえるオリジナルのメニューも多数考案。「わたし自身のために淹れるのは、自分で焼いた急須で仕事の合間にちょっと一服いただくお煎茶です。わたし、いっぱい喋りますやろ。のどが渇くんです(笑)」(辻󠄀本さん)

生来のお茶好きが高じてオープンしたという、緑茶専門カフェ「茶亭 楓庵(ふうあん)」。店主の辻󠄀本高か代さんのはつらつとした笑顔に引き込まれます。

「開店のきっかけは27年前。当時、本当においしい日本茶をゆっくり楽しめるお店はほとんどなくて。周囲には『そんなお店つくっても流行らないよ』と反対されましたが、今日まで続けてこられました。もっとお茶の魅力を発信していきたいと思い、還暦になる前年に日本茶インストラクターの資格も取りました」

遅咲きでもお茶への愛情は誰にも負けません。お茶の銘柄ごとの味わいの違いから茶店の歴史、日本茶の「合組(ブレンド)」の仕方にいたるまで、お茶にまつわる話が止まらない辻本さんは、自分のためにいったいどんなお茶を淹れているのでしょう?

「仕事の合間に、自分で焼いた急須でお煎茶を淹れています。この一服でまた頑張れるんですよ」

お茶を淹れた後の茶葉

辻󠄀本さん自作の急須で丁寧に淹れてくださった煎茶の甘さと香りに驚かされます。どうしてここまでお茶にハマっているのか理由を聞いてみました。

「お茶は捨てるところがありません。お茶を淹れた後の茶葉をおひたしにしたので、ポン酢で召し上がってみてください」 爽やかな香りとほのかな苦みがひろがります。

「おいしいでしょう? お茶は栄養豊富な野菜でもあります。そして、わたしが風邪ひとつ引かないのはお茶のおかげ。心もからだも癒す万能薬です」

お茶の泡だて方

最後に、新茶ならではの楽しみ方をうかがいました。

「新茶の特長は若葉の香りが楽しめること。熟成されたお茶よりまろやかさが少ない分、わずかにお湯の温度を高めにして、若々しい香りと味を引き出すとよいと思いますよ」

その口ぶりにお茶に関する深い知識と経験、尊敬と愛情が溢れています。

「本当に『おいしい』お茶とは心の底から癒してくれるもの。私なりの『ほんまもん』のお茶を追求していきたいです」

茶亭楓庵

茶亭 楓庵(ふうあん)
【住所】京都府長岡京市長岡1-2-18
【電話】075-951-6798
【営業時間】10:00~18:00(L.O.17:30)
【定休日】月曜・第1日曜
【SNS】https://www.facebook.com/tyatei.fuan/
【HP】http://www.yorozuyanet.jp/y713/

「客人と商談中に飲むお茶は たとえ一口だとしても、ひと呼吸つけます」

丸太遠藤 三代目 遠藤豊延さん

遠藤富延さん
プロフィール

えんどう とよのぶ●京都市生まれ。1940年創業の絞りの製造卸業「丸太遠藤」の3代目。京都や名古屋の職人さんと連携し、昔ながらの伝統技法を大切にしたものづくりを続けている。近年は、新たな染分け技法を活かしたデザインなどにも取り組む。江戸時代の画家、尾形光琳も居住していたという町家造りの仕事場にて。「祖父が越してきたときは知らなかったようで、だいぶ手を入れていますが。私たちも聞いたときは驚きました」(遠藤さん)

絞り染めの技術を使った和装品のメーカー「丸太遠藤」。三代目の遠藤豊延さんは、家業を支えて15年。図柄の提案から製造までを担い、また、職人さんとともに絞り染めの新しい表現を探求しています。

絞り染めは、聖徳太子の時代から行なわれていた染織の方法です。糸で布をくくったり、縫い締めたりして染色液の侵入を防ぎ、「粒」や「しぼ(絞りシワ)」の模様を付けます。

試作品

初代から続く仕事場は、風情漂う町家の一画に。広い座敷には、仕上がったばかりの美しい反物や愛らしい柄見本が所狭しと置かれています。

日々、この場所で商談に追われる遠藤さん。お客様は、主に京都に店を構える卸先の呉服店さん。中には花街のご贔屓店もあり、遠藤さんが手掛けた絞り染めが、舞妓さんのお座敷着になることも。

商談の合間に飲むお茶は、「前庭を眺めつつゆっくりという訳にはいきませんが、バタバタした中での区切りになっています」と教えてくれました。

遠藤さんのいつものお茶は、抹茶入りのほんのり甘い煎茶。ときには入れ替わりやってくる客人に合せ、短時間に何杯も淹れることもあるそう。慌ただしさの中、たとえ一口だとしてもその都度ひと呼吸つくことで、仕事のリズムを整えます。

着物のデザイン

そんな忙しい平日とは打って変わって、自ら和菓子を調達し、じっくりと味わうのが、休日のくつろぎのお茶。
実は遠藤さんは大の甘党。ワインに洋菓子を合せるのも大好きです。

「日本茶にはやっぱり和菓子を合せたいですね」と、この日用意したのは北野天満宮の近くに店を構える専門店のどら焼き。

伝統の型を守りつつ、新しい技術に挑み続ける「丸太遠藤」の絞り染めと同じように、生姜やクリームチーズを挟んだり、レモンをのせたりと、新しい味の世界を見せてくれるこちらのどら焼きを、甘めの煎茶でいただくのが最近のお気に入りだそう。春は、花街の踊りにちなんだ小皿を菓子器に、京の文化も感じつつ、お茶の時間を楽しみます。

お気に入りのどら焼き

おわりに

三者三様の新茶の楽しみ方、いかがだったでしょうか。今だけの貴重な新茶の味わい、香りは存分に楽しみたいもの。みなさまもぜひ、新茶を飲んで毎日を健やかにお過ごしくださいね。

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企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。