6月、二十四節気の「芒種(ぼうしゅ)」が訪れます。これは、稲や麦などの〝種を蒔く〟という意味で、夏の季語でもあるとか。今回は芒種にちなんで、最近、新たな企画や新店などを立ち上げた魅力的な京都在住の女性たちにインタビュー。3人のお茶時間には意外な共通点がありました。
「自分で加減し、工夫して淹れるお茶は〝ちょっとした手づくり感〟が格別です」
「暮らしの和文化セミナーHITOTOKI」 山田悦子さん
やまだ えつこ●京都生まれ。ふろしき製造卸業「山田繊維株式会社」の自社ブランド「むす美(び)」のアートディレクター、広報。『京都の風呂敷屋さんが教える一生使える!ふろしきの結び方・包み方 50(PHP研究所)』といった著書や、監修を手がけた書籍も多数。 「むす美」https://www.kyoto-musubi.com/
1937年創業の、京都のふろしきメーカーで広報を担当する山田悦子さん。現代のライフスタイルに適した、お洒落なふろしきを数多く扱う自社ブランド「むす美」のアートディレクター兼広報として、ふろしきの魅力や日本文化のすばらしさを国内外に伝えています。
「実は、昔はそうしたことに、あまり関心がなかったんです。祖父が当社の創業者で、ふろしきはずっと身近な存在でした。それで、かえって西洋的なものへの憧れが強まったのかもしれません」
山田さんが、前職で携わっていた仕事はテーブルコーディネートの世界。そこで陶磁器や漆器、花、食などについて学び、改めて先人が築いてきた伝統や文化の豊かさに驚いたそう。2005年、東京・神宮前にオープンした「むす美」のショップに携わり、日本の生活文化への関心がどんどん高まっていったといいます。
少し前、若い知人に「茶葉でお茶を淹れた経験がない」と言われ、驚いたという山田さん。
「私は、自分で茶葉の量や淹れ方を工夫できる、お茶の〝ちょっとした手づくり感〟が大好きです。でも、どんなにすばらしいものも、興味がなければ心に響きませんよね。若い日の私がそうだったように、まず知ることが重要です」
そんな思いで2022年4月、山田さんは20年来の友人らとともに「暮らしの和文化セミナー HITОTОKI(ひととき)」を発足させました。オンライン講座で、日本のこと、和の生活文化に関心のある人は誰でも参加可能です。
同セミナーが、次世代の人たちの興味のきっかけにもなれば、と山田さんたちは考えています。
「HITOTOKI」
のセミナー概要
毎回、さまざまな分野のゲスト講師を招いての講座を実施。
■今後の内容(予定)
6月…日本の色彩観
8月…自然との共生に育まれた日本人らしさ
10月…日本庭園の楽しみ方 など
■開催:偶数月の第2か第3土曜の14:00~15:30
年6回が1クール(1回ごとの受講も可)
■受講料:1回2,000円(一括払いは5回7,500円)
※別途年会費(2,000円)要
■https://hitotoki-wabunka.com/
※詳細は、HPにて。申し込み、問い合せは専用フォームから。
「合う器を選び、丁寧にお茶を。時間に追われていても、心が調います」
「器コーディネーター ・料理家」 東條麻備さん
とうじょう まび●京都嵐山にある、お料理と器のサロン「麻乃屋」店主。工芸と食をテーマに豊かな暮らしを提案するイベントなども開催。現在のコンセプトは「SDGsも視野に入れ、人生をともにするモノを届けること」。
京都・嵐山の静かな住宅街の一角に、完全予約制のお料理と器のサロンとして「麻乃屋(あさのや)」がオープンしたのは、2022年の4月のこと。
京都生まれの店主・東條麻備さんは、大阪で約10年前から器のギャラリーを開いていましたが、いずれは自分のルーツに拠点をと、常々考えていたといいます。
「麻乃屋は、大阪・中ノ島のレトロビルの一室からスタートしました。その後、大阪市内での移転、一時休業なども経て、子育てが一段落したタイミングで、念願の京都への移転が叶いました」
新たなスタートにあたり、以前と比べて扱う作品を厳選し、ぐっと絞ったのが、一番の大きな変化。〝人生をともにする美しいモノ〟をコンセプトにする点はそのままに、オリジナルで製作した暮らしの道具を取り扱っています。
例えば、修行僧が使う〝自鉢(じばち)〟や〝応量器(おうりょうき)〟という入れ子式のお椀を、現代の暮らしに沿うようにデザインした「五月椀(いつきわん)」が代表的な商品。東條さんが企画から手がけ、作家とともに完成させたという漆の器は、凜とした美しさが漂います。
東條さんの座右の銘の一つが、お茶の先生から入門当初に言われた「いいお菓子をいただくとき、それに合う器をきちんと選び、お茶を丁寧に淹れなさい」というひとこと。時間に追われているときも、これを意識すると自然と背筋が伸び、気分が落ち着くのだとか。
「お茶は大好きです。甘党なので、お菓子とセットがほとんどなのですが(笑)。リラックスしたいとき、気合を入れたいとき、どちらのときもお茶からエネルギーをいただけるんです」
お料理と器のサロン「麻乃屋」
(web shop 「Gallery Asa Kyoto」)
https://asano-ya-shop.com/ 詳細はHPにて。
「朝の煎茶は、仕事始めのスイッチ。自分だけのために淹れます」
「焼き菓子の店 le murmure(ミュルミュール)」 丸井優子さん
まるい ゆうこ●焼き菓子の店「le murmure (ミュルミュール)」店主として、営業販売、インターネット管理、取材対応(トーク)を担当。20年前より注文制の菓子工房を始め、6年前から週1日の対面販売(北白川の店)を行なう。アトリエショップで、いずれカフェ営業をできるように準備中。
【instagram】https://www.instagram.com/lemurmure.cakes/
「私にとって朝、仕事の前に淹れるお茶は極めてパーソナルなもの」と、焼き菓子店「le murmure」店主の丸井優子さん。
例えていうと、ブラックコーヒーを寝覚めに飲んでシャキッとさせるような感じ、だとか。
「仕事モードへの切り替えスイッチです。なので、このときはお菓子とも合せません。この茶器で煎茶や玉露などを、二煎は淹れていただきます」と話します。
同店は、2021年10月末に京都・西陣の町家を改装したアトリエショップをオープン。丸井さんの妹・斉藤直子さんがつくる焼き菓子の、素朴で、極上な味わいが評判です。
木曜・土曜の週2日間のみの営業という希少性も相まって、決してアクセスが便利ではない住宅街のお店の前に開店時間前からお客さんが列をなすことも。さらに営業終了時刻を待たず、お菓子が売り切れることも珍しくないほどだとか。丸井さんが、朝から〝スイッチ〟を入れて仕事に臨むのも、なるほどとうなずけます。
でも、どんなに忙しくても丸井さんと斉藤さんはどこか楽しそう。その秘密のヒントは店名にありました。丸井さんによると、「ミュルミュール」はフランス語で〝ぶつぶつ呟く〟ことを意味するそう。
「お菓子の販売を始めたのは、二人とも主婦だった20年ほど前のこと。昔から私たち、いろいろなお菓子を食べては、『こっちがおいしい』『もっと、こうなら』なんて、好き勝手にしゃべっていました。それは今も相変わらず(笑)。私は〝食べたいものを、どんどんリクエスト〟し、妹は〝型にはまらず、つくりたいもの〟をつくります」
この姉妹ならではの、コンビネーションのなせる技、生み出されるお菓子とお店の今後に、期待が高まります。
焼き菓子の店
le murmure(小川の店)
■住 所:京都市上京区挽木町518(寺之内通小川下ル)
■営業日:毎週木曜・土曜11:30〜17:00
おわりに
京都でパワフルに活躍する3名の女性のお茶の楽しみ方、いかがだったでしょうか。忙しいときでも急須でお茶を淹れて飲み、気持ちを切り替えておられるという共通点がありました。みなさんも日々の生活の中にお茶でホッとひといきつく時間を設け、体調を崩しやすいジメジメとした梅雨の時期も元気な毎日をお過ごしください。
(写真 武甕育子 津久井珠美 / 文 市野亜由美)
企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。