大きな輪っかが神社に出現! 京都疫病退散行事・夏越の祓とは?

6月末に京都の神社に設置される茅(ちがや)でつくられた茅(ち)の輪(わ)。この輪をくぐったり、人形を流して、この半年の厄を祓う行事が夏越の祓です。京都で代表的な4つの神社の神事とともに、人々の健康への祈りを込めた行事の意味をご紹介します。

城南宮
城南宮の茅の輪。

【貴船神社】茅の輪くぐりの由来はスサノオノミコトまで遡る! はるか昔の祖先の善行が厄払いに?

貴船神社・大川路の儀

6月末に京都をはじめ全国の多くの神社に設置される茅の輪。茅萱(ちがや)でつくったこの大きな輪をくぐることでからだについた半年間の穢(けがれ)を取り除くという神事で、京都の貴船神社でも例年、茅の輪が設置され、茅の輪くぐりや人形(ひとがた)流しなどの神事が行なわれます。

茅の輪の起源は、奈良時代の『備後国風土記(びんごのくにふどき)』の逸文にある蘇民将来(そみんしょうらい)の逸話にあります。蘇民将来は日本各地に伝わる説話にも登場する人物。それによると、貧しい蘇民将来には裕福な兄・巨旦(こたん)将来がいましたが、スサノオノミコトが旅の途中、一夜の宿を求めたとき、巨旦が宿泊を断ったのに対し、蘇民は快くもてなしたとあります。数年後スサノオは再び蘇民の家を訪れ、「悪疫が流行したら茅萱で輪をつくり、それを腰につけていたら悪疫を免れる」と教えます。やがて悪疫が流行ったとき、蘇民は教えを守ったので子孫は栄え、巨旦の一族は滅びてしまったとされています。この蘇民の腰の茅の輪が、いつしか人がくぐるほどの大きな茅の輪となり、今に伝わっています。

貴船神社では6月30日に夏越(なごし)の大祓式(おおはらえしき)が斎行されます。まず本宮社殿前で神職が大祓詞(おおはらえのことば)を宣(の)り、「祓(はらい)」の儀式が行なわれます。次いで、神職・参列者ともども、紙の人形に罪穢れを移すとともに、麻布を割いた切麻(きりぬさ)という祓具(はらいぐ)で身の穢れを祓います。大祓詞ののち、茅の輪くぐりの神事があります。茅の輪は8の字を描いて3度くぐる習わしになっています。

そのあとの大川路の儀では、本宮社殿から貴船川に移動して、大祓詞を唱えながら、河原に立った神職が人形を新緑の川に投げ入れます。白い人形が宙に舞い、やがて流れていく光景は、はっとするような美しさで身がひきしまります。穢れを移した人形はこうして水に流され、身は祓い清められるのです。

貴船神社

【住所】京都市左京区鞍馬貴船町180
【電話】075-741-2016
【HP】http://kifunejinja.jp

●6月30日15:00 夏越の大祓式
※一般参拝で参加可能(お祓い料: 1名200円)

貴船神社

【今宮神社】千年の都・京都で受け継がれるのは文化だけじゃない! 人々の願いを受け継ぐ疫病鎮静

今宮神社

昔の人は、疫神や失脚した人の無念の霊が疫病などの災いを起こすと考え、それを「御霊(ごりょう)」と呼んで恐れました。京都の北の紫野(むらさきの)の地には、疫神を祀った社がありました。ときは正暦5年(994)、紫式部や清少納言が活躍した一条天皇の時代に、疫病や災いが起こったため、神輿(みこし)を造って疫神を祀り疫病鎮静を祈ったことが紫野御霊会(ごりょうえ)であり、今宮神社の始まりです。

その後、応仁の乱などで盛衰がありましたが、江戸時代、五代将軍徳川綱吉の生母・桂昌院(けいしょういん)が西陣の出身だったことから、今宮神社の祭礼の復興に大いに努め、再び活発になります。

毎年4月、花の散る頃に拡がる疫病を鎮めるための「やすらい祭」は、春の精にあおられ陽気の中で飛散する疫神を風流傘に誘い入れ、傘に宿った疫神を摂社の疫社へ鎮める神事です。京都三奇祭のひとつとされ、地域の人たちが赤熊を付け、鬼に扮して踊り、練り歩きます。今年は新型コロナウイルスの流行で巡行は中止になりましたが、鎮疫の神事が本社で執り行なわれました。

さて、それに続く厄祓いの神事が、一年の折り返し地点の6月30日に行なわれる夏越祓(なごしのはらえ)です。境内には茅萱(ちがや)でつくった茅の輪が設えられます。神事では、浄衣(じょうえ)の神職を先頭に参列者も続いて茅の輪をくぐったあと、ともに大祓の詞を奏上しながら、斎庭でやすらい人形(ひとがた)を忌火(いみび)で焼く焼納神事が行なわれます。

やすらい人形の内側に名前を記して疫厄を人形に遷し、大祓の日に焼納するのです。燃え上がる聖なる炎に、厄が祓われるとき。人々の祈りに応えるように炎が立ち上がります。

なお、夏越祓は一年の上半期を祓い清める神事。下半期の祓い清めは大晦日に執り行なわれます。心を込めて半年の厄を払い、後半年の無病息災を願います。

今宮神社

【住所】京都市北区紫野今宮町21
【電話】075-491-0082(受付時間:9:00〜17:00)
【HP】http://www.imamiyajinja.org


●6月30日15:00 夏越祓

今宮神社

【城南宮】進化する厄払い! 現代は、○○も一緒に、半年の穢れを祓う

城南宮・愛車(おくるま)の茅の輪くぐり

京都の南を守護する方除(ほうよ)けの神社・城南宮では例年6月25〜30日に茅の輪が設置され、茅の輪くぐりと人形(ひとかた)流しが行なわれます。しかしほかと違うのは、車で茅の輪くぐりができるところです。

例年7月1〜7日、境内の西側駐車場に直径5メートル近い大茅の輪が設置され、「愛車(おくるま)の茅の輪くぐり」として、車ごとお祓いを受けられるのです。

国道一号線から駐車場に入り、誘導路に沿って赤い欄干で囲まれた大茅の輪に向かいます。いったん停車して神職によるお祓いを受けたあと、そのまま運転して茅の輪をくぐります。日頃、車やバイクを愛用してる人は、車も半年の厄を落としてリフレッシュ。改めてあと半年の安全を祈りたいところです。

城南宮

【住所】京都市伏見区中島鳥羽離宮町7
【電話】075-623-0846
【HP】https://www.jonangu.com

●6月25日~30日9:00〜16:00 茅の輪くぐり・人形流し(参加自由)
●6月30日15:00 夏越の祓
●7月1日~7日9:00〜16:00 愛車(おくるま)の茅の輪くぐり(参加自由)

【北野天満宮】大は小を兼ねる? 天満宮総本社の茅の輪は超Big!

北野天満宮・夏越天神

「天神さん」と京都の人々から親しまれ、梅や紅葉の名所としても有名な北野天満宮。全国約12,000社の天満宮の総本社です。

北野天満宮は公を御祭神としますが、その御誕生日が承和12年(845)6月25日。そのため神社ではこの日の早朝、「御誕辰祭(ごたんしんさい)」が斎行されます。折しも夏越の時期であるため「夏越天神(なごしてんじん)」とも呼ばれ、無病息災を願って楼門に大茅の輪が登場します。丸太のように束ねた茅を神職が数人がかりで設置しますが、その大きさは直径約5メートルにもなります。

6月30日には御本殿正面に茅の輪が設置され、夏越大祓の神事が行なわれます。半年間の罪や穢れを祓い、無病息災を祈願する神事ののち、茅の輪をくぐり、厄が祓われます。

北野天満宮

【住所】京都市上京区馬喰町
【電話】075-461-0005
【HP】http://kitanotenmangu.or.jp

●6月25日 大茅の輪くぐり
●6月30日 夏越の大祓

北野天満宮

長い歴史のなかで、人々は疫病や困難と闘い、克服してきました。
今も残る京都の伝統行事には、人々がつないできた平和への祈りが込められています。
疫病退散を願い、ともに社会の困難に打ち勝ちましょう。


(文・中岡ひろみ/写真・山中茂)

planmake_hagiri

企画・構成=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。