「お茶でほっとひと息」なんていいますが、お茶を飲むと心なしか気分が変わるものです。飲む場所、飲むタイミングなど、お茶との関わり方や楽しみ方は人それぞれ。京都で活躍する素敵な女性3人に「自分らしいお茶時間」の過ごし方を聞きました。
「作品づくりの中で、あえてひと息つくために、お茶の時間を持っています」
プロフィール●1975年、京都市生まれ。1997年から7年間、茶陶楽焼の吉村楽入氏に師事。2001年に京都府立陶工高等技術専門校成形科、2002年に京都市立工業試験場陶磁器コース本科を修了。2004年に独立。2015年から「未央窯」を名乗り、楽焼の茶道具、食器やオブジェなどを制作している。
「お茶とわたしの作品には、切っても切れない関係があります」と、津田友子さん。21歳で陶芸家を志したものの、当初は業界に入るのに苦労したといいます。
「家業でもない、まして女性だと厳しいと言われ続けて。そんなとき、楽焼の3代目・吉村楽入(らくにゅう)先生と出会い、『楽入窯』で修業させていただき、道が開けました」
こちらで初めてお茶の世界に触れた津田さん。「窯には茶室があり、頻繁に茶人もお越しになるので、否応なしに勉強できる環境でした」とにっこり。その後、出産や子育てなどを経て、現在は食器やオブジェといった新境地の作品も発表していますが、楽焼の茶道具は制作の中心にあります。使う人の所作をいかに美しく見せられるかを重視する津田さんの茶道具づくりには、自身がお茶と向き合う時間が今も不可欠です。
そして、もうひとつ大切なのが作陶中のお茶時間。1日1回は、工房のスタッフと共にお茶を楽しむようにしているのは、休憩としての意味合いだけではありません。
「わたしは“待つことも芸術”だと念頭に置くようにしています。陶芸には、ひねりごろ、削りごろがあり、スピードに乗ってやってしまうのはいけないんです。『腕が走っているな』と感じたら、あえてそれを止めるためにお茶を淹れます」
津田さんにとってお茶を淹れる行為は、自分の仕事を一歩引いて見るための、〝待つ〟時間という重要な役割も果たしているようです。
「お茶の稽古時間を持って、多忙な日々から少し距離をおくんです」
プロフィール●京都市左京区聖護院にある編集プロダクション「文と編集の杜」代表。丁寧な取材と美しい文章で数多くの媒体で編集・執筆を手がける。2020年4月には、ギャラリー「店と催し 雨露」を同社事務所内にオープンし、展示・ワークショップを開催。詳細はHPで確認を。【HP】http://bhnomori.com
文具好きの心をくすぐる紙アイテムや読み物が並ぶギャラリー「店と催し 雨露(あまつゆ)」。主宰するのは、編集者の瓜生(うりう)朋美さんです。
「日々、取材をして原稿を書いたり、本をつくったりする中で、読み手との接点をつくってみたいと思ったのが、ここを開いたきっかけです」
訪ねてくるお客様との交流はとても心地よく、創作活動の刺激にもなっているそうで、瓜生さんの大切なライフワークとなっています。
そして、もう一つ。瓜生さんの忙しい日常に欠かせないのが、お茶に向き合う時間です。
「習い始めて3年。茶道のお稽古で感じるのが、春夏秋冬だけではない季節の流れです。二十四節気に表されるような季節の移ろいを、お菓子や床の間の設えが教えてくれます。この微妙な変化に触れられることがとても印象深く、細やかなことに目を向けるって素敵だなと思います」
また、お稽古には携帯電話を持ち込まないので、日常から切り離される2時間が強制的に生み出されるのだとか。
「忙しく仕事に追われる毎日をリセットするために、お稽古にはできるだけ休まず通っています」
この時間があるからこそ、新しい挑戦に向かう力が湧いてくるようです。
「もっと家でも抹茶を点てたいけれど、余裕がなくて」と瓜生さん。でも、食事の際にはいつも煎茶を用意します。
「お茶って味も香りもあるのに、どんな料理にも合うなんてすごい。ほかの味を受け入れて、さらにおいしさを感じさせてくれる。その懐の深さにも、わたしは毎日癒されているのかもしれませんね」
「1日の締めくくりに、抹茶を点てて飲むのが至福のときです」
プロフィール●広島県出身の26歳。立命館大学在学中には「茶道研究部」に所属し、部長を経験。現在、平日は会社員として働き、週末はお茶のお稽古とさまざまなお茶会に参加するのを楽しみとしている。多いときは1日に3席をめぐることも。また、年に数回、お茶会で亭主を務めたり、大学1回生のためのお茶体験を後輩らと開催したりしている。
藤井さゆりさんがお茶と出合ったのは9歳のとき。「小学校の茶道クラブの見学で、起座(きざ=茶道の所作のひとつ)が格好よくて。自分もやりたいと思いました」と話します。そのうち、お茶やお菓子、季節の設えなどの興味深さに惹かれ、茶道部がなかった中学・高校時代にも、馴染みの先生が公民館で開かれていた教室にも通うほどに。
そんな藤井さんでしたが、地元・広島を離れ、立命館大学の茶道研究部に入って衝撃を受けます。それは“初めて、大人がお茶を愉しむさまを見た気がした”から。やがて藤井さんも、自分で道具を揃え、お茶会を開き、奥深い世界に引き込まれていきます。
「もともと好きだったお茶ですが、まさかこんなにハマるとは。京都に来て、茶道部に入ったからこそ、今の生活があるんです」
今回の取材では、藤井さんの自宅へお邪魔しました。8畳ほどのワンルームマンションには、なんと、畳2枚が敷かれた茶室スペースが。そこに、かわいいクマのぬいぐるみの置かれたベッドが共存しているのも、なんだか微笑ましい光景です。
ときには人を招いて小さなお茶会を開くこともありますが、何よりここは藤井さんの憩いの場。一日の締めくくりに、お茶を点てて飲むといいます。
「お菓子を選んで、お茶碗を選んでというのが楽しくて……」と、ニコニコ。笑顔でお茶に親しむ姿から、本当にお茶が好きという気持ちがにじみ出ていました。
三者三様のお茶時間の過ごし方、いかがだったでしょうか。忙しいときこそ、ちょっと気分を変えるため、好きなお茶を丁寧に淹れて、ほっとひと息ついて、健やかな毎日をお過ごしください。
(写真 武甕育子/ 文 市野亜由美 岡田有貴)
企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。