やってみたら意外とラクだった!効率のよい今どきの京都町家暮らし

古都・京都にある風情ある佇まい。京町家に住んでみたいと憧れる人も多いのでは?でも、住むのは大変そう…。町家の毎日をつづったブログが人気の美濃羽まゆみさんは「昔ながらの知恵と工夫で無理なく過ごせます」と町家暮らしについて教えてくれました。

京都の町家で暮らす美濃羽さんは「手づくり服やほうき掃除は、丁寧に暮らそうじゃなくて、ラクをしようとはじめたこと。昔の方法って、すごく理にかなっているんです」と話します。町家に暮らして 10 年。日々の暮らしで気づいた、昔ながらの生活の知恵やさまざまな工夫をお聞きしました。

美濃羽まゆみさん

寒いし、暗いし、町家の暮らしは
慣れないことだらけ。
でも、美しい○○に気づいて……

京都・西陣にたたずむ築百年ほどの昔ながらの町家。

訪ねてゆくと、ちょうど玄関をほうきで掃いている美濃羽まゆみさんがいました。

招かれた町家は、開放的な吹き抜けと、使い込まれた水屋箪笥(みずやたんす)に大きなちゃぶ台。初めての場所なのに懐かしさを感じる居心地のよさがあります。

ご主人のたっての希望で町家に引っ越してきたという美濃羽さん。

「最初は試行錯誤でしたね。それまでは普通の洋風の家にいたので、勝手がわからなくて」

それでも、暮らしているうちに、だんだんと昔ながらの間取りや、昔の人の知恵を感じ、愛着がわくようになってきたといいます。

京都の町家特有の「うなぎの寝床」と呼ばれる細長い間取りは、南北にしか窓がなく、曇りの日は昼間でも真っ暗。

「冬の寒さや雨風など自然の厳しさも感じますが、障子紙越しに光がさすと置いてある物の陰影が美しく見えて。それが好きですね。吹き抜けからの日の光も季節によって入り方が違っていて、家の中にいながら季節のうつろいを感じられます」

美しい四季の移ろいに気づき、坪庭が季節によって変化していくのも楽しみだと話します。

美濃羽まゆみさん

欲しいものが見つからないなら?
妥協して買うよりいい方法があるかも

ハンドメイドの洋裁作家として活躍する美濃羽さんですが、服づくりのきっかけは、娘さんでした。実は娘さんに発達障がいがあり、その症状のひとつが感覚の過敏さでした。

「肌触りがよくて動きやすく、かつ、私好みのシンプルでシックな服を着せてあげたくて、つくることにしたんです」

もともと手づくりが好きだった美濃羽さんは、娘さんの服の残りの布でもう一着つくり、ネットオークションで売りはじめました。シンプルなデザインで、肌触りのよい生地にこだわった子ども服。その魅力を知った人々がファンとなり、だんだんと人気が出るようになります。やがてオークションをやめ、自身のネットショップを持つようになり、一時期は 1 ヵ月に 100 枚をつくったこともあったとか。今は展示会での完全受注で服をつくり、販売しています。

「届くまでの時間も楽しい、と半年以上待ってくださる方もいらっしゃって。ほかに安くてかわいい服がたくさんあるのに、私の服を選んでいただけるのは本当にありがたいです」

自分の手でつくってみたいという方に向けて、洋裁教室の講師や、子ども服の洋裁本を手がける美濃羽さん。男の子服の洋裁本など、今までにない本をつくっています。

「男子服の洋裁本は売れないっていう人もいました。でも、子どもにつくってあげたいっていうお母さんたちはいると思うんです。年配のお客様の中には、お孫さんとおそろいの服をつくっている方もいらっしゃいますよ」

昔は当たり前だった手づくりの服。今では買うことが多数派ですが、市販品の中から好みのものを探すのも手間がかかったり、ときに妥協してしまうもの。でも、自分でつくれば好きな素材とデザインが選べます。

また、つくり手になってみると、買うときの目も肥えるといいます。

「服を手づくりすると、愛情もわくし、大切にするようになる。それに、つくる技術もその人のなかに残るんです。失敗しても大丈夫。手を動かすことでだんだん勘がさえてきます」

京町家の暮らし

ほうき掃除、土鍋での
ご飯炊きは、 実は、
ラクしよう、ラクしようと
たどり着いた結果

「実は、ほうきの掃除だって、丁寧に暮らすのが目的ではなく、効率的にやろうと思ってたどり着いたんです」

細長い間取りの町家は、掃除機のコードが届かず、なんどもコンセントを差し替える必要があったり、壁が薄いので隣への音に気を遣ったり。ほうきだと気づいたときにササッと取り出せて、音も静かで快適です。掃除機で届かない場所の埃も掻き出せるし、床を傷つける心配もありません。

ほかにも町家は収納スペースが少ないので、買うものにこだわるようになったとか。

「天然素材のものを選ぶようになりましたね。もともと物を捨てられない性格だったんですけど、身近なものも繕ったり直したりして、最後まで使う。掃除に使っているはたきも端布を再利用した手づくりです」

日々の食事は土鍋ご飯と保存食、旬の食材を焼いたり揚げたりして最低限の調味料で味付けするシンプルなおかず。味覚が敏感な娘さんも喜びます。

「すごく理にかなっているんです。私もラクできるし、食材も余すことなく使うことができます」

自分の手を動かし、昔ながらの知恵や工夫で、町家にも愛着がわき、楽しんで暮らしているといいます。

「娘が社会科で 100 年前の暮らしを学んできたんですが、うちと変わらないねって(笑)。ほうきやはたきで掃除をしているし、梅干しを漬けて、ご飯を土鍋で炊いて……」

人生の転機となった娘さんの誕生から 11 年。娘さんは小学生となり、5 歳の弟と元気に遊んでいます。

「子どもは育てたように育つと思っていましたが、違うんですね。娘を見ていると、娘は娘の世界を持っていて、私にできることなんて、彼女のために環境を工夫することぐらい。町家の暮らしも同じかもしれません」

電化製品に頼りすぎない暮らし。

快適にするための工夫のなかで、昔ながらの知恵や方法の素晴らしさに、改めて気づかされます。

 

写真/福尾行洋

手づくり暮らし研究家
美濃羽まゆみ

みのわまゆみ●洋裁作家、手づくり暮らし研究家。FU-KO basics. を主宰し、「思い出に残る服・思い出をつくっていく服」をテーマに、シンプルな洋服をつくっている。京都の築 100 年の町家での子育てや日々の暮らしをつづったブログも人気。著著に『作ってあげたい、女の子のお洋服』『毎日着たい、手づくり服』(日本ヴォーグ社)などがある。

昔ながらの日本家屋、町家の暮らしは、一見大変そうですが、美濃羽さんのお話からは、無理のない余裕が感じられます。めんどくさそうと思ってもやってみると意外とできてしまったり、無理のないやり方をみつけることで、自分らしい豊かな暮らしにつながるのかもしれません。

 

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planmake_hagiri

取材・文=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。