2021年7月、ジャイアントキリングで話題となったおこしやす京都AC。クラブの代表を務めるのは、東大卒のJリーガーとして話題を集めた添田隆司さんです。
そんな添田さんに、お茶時間や、サッカーチームと試合に賭ける思いについて聞きました。

添田さんの普段のお茶時間
—— 普段、日本茶を召し上がる機会はありますか?
「はい、ありますよ。緑茶を急須で淹れて飲んでいます。時間があれば食事のあいだに、あとは休みの日とか、本を読んでいるときとか。一息つきたいときに淹れることが多いですね」
—— 添田さんのような20代の方が、急須でお茶を淹れておられることにうれしさと驚きを感じました。
「日中や夕方、チームの試合に同行するときなど、あわただしく過ごしています。そんな普段は、水分補給が大切なので、ペットボトルの飲料を飲みます。でも、リラックスしたいときや、家で仕事をするときとか、気分を切り替えるために、ちゃんと急須でお茶を淹れて飲むようにしています。待っている時間の所作というか、あの間(ま)が気分転換になるんです」
—— お好みの茶葉や、購入される際のこだわりはありますか?
「実は、あまりこだわりというものはありませんね。自宅で使っている茶葉は、自分で買ったものや、いただきものが多いですね。それと、宇治田原製茶場さんが『おこしやす京都』のパートナー企業になっていただいているご縁もあり、宇治田原製茶場さんにお伺いした際には、煎茶を買わせていただいています」

東京大学に入学するも、卒業後は商社ではなく、サッカーの道へ
—— ちょうど宇治田原のお話が出たところで、お茶が入りましたので、どうぞ召し上がってください。
「ありがとうございます。わぁ、やっぱり急須で淹れていただくお茶はおいしいですね。日本茶は、なんというか、うま味が出てくるところが好きです。ペットボトルのお茶には、このうま味があまり感じられないように思います。うん、おいしい。きちんと淹れたお茶で深みや苦味を味わうのが楽しいですね」
—— 普段から日本茶を楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきます。添田さんは、東京のご出身ですね。京都の印象はいかがですか?
「まさか、自分が京都でクラブチームを運営するなんて夢にも思っていなかったです。学生時代の自分が知ったらびっくりすると思います。来る前は、『ちょっと閉鎖的なところだ』『内と外で思っていることが違う』みたいな話を聞いたことはあったのですが、実際に京都に住んでみて、『そんなことないな、ここに来てよかった』って思っています。周りのみなさんには、大変よくしてもらい、感謝しています」
—— 添田さんが京都に来るきっかけをつくったサッカーですが、東京大学卒のJリーガーとは異色の経歴です。どんなご縁があったのでしょうか?
「サッカーが大好きで、子どものころからずっと続けていましたが、プロになるなんて想像もしていなかったんです。とある総合商社から内定が出て、就職に向けてTOEICの試験を受けて、もう就職する気満々でした。ところが、4年生の12月、静岡県のチーム・藤枝MYFCから練習に参加しないかというオファーがありました。軽い気持ちで参加したのがきっかけです」

お茶の名産地を渡り歩くサッカー人生
——そこからJリーガーの道が開けていくのですね。
「2014年当時、J3(Jリーグ3部)というカテゴリーができた初年度で、J3のレベルが知りたくて半分は興味本位で参加したのに、まさかの加入のお誘い。二週間くらい悩みましたが、自分がJリーグでサッカー選手として挑戦したときに、どれだけ上手くなれるのか試してみたくなったんです」
—— そして、藤枝で二年半プレーして、京都へ移籍されましたね。
「さまざまなご縁からアミティエSC京都(現・おこしやす京都)へ移籍したのが四年前です。今、ふと思ったのですが、静岡から京都って、お茶の名産地を渡り歩いていますね。なんだかお茶に馴染み深いサッカー人生です(笑)。静岡時代にも、よくお茶をいただいていました」
—— 京都でも選手として活躍され、惜しまれながら引退。そして、チームの代表に就任されました。
「選手としての最後のシーズン、チームを上部リーグへ昇格させることができず、個人としての悔しい思いはありました。でも、地域のクラブチームとして多くの方が協力してくださっている環境を見て、もっと自分にできることがあるのではと、運営に回る道を選びました」

サッカーチームを運営する上で意識していること
—— 選手から運営へ。転換に戸惑うことはありませんでしたか?
「藤枝時代にチームの運営会社で社員として仕事をしていたことが基礎になっています。日本企業の大半は地域の中小企業です。経営者自らが、いろんな角度から物事を見て、自由な発想をして、責任はすべて自分でとる。そういった方々に間近でふれて、勉強させてもらえたことが今に活きています。もしサッカー選手の道を選んでいなければ、会社での出世を目指すサラリーマンだったと思います。地域社会について知らないことだらけだったでしょうね」
—— そんな経験は、添田さんのチームづくりにおいて、どのように生かされているのでしょうか?
「私の個人的な考えですが、チームは監督や選手の個の力で勝つものではないと思っています。勝利に対して、クラブチームがコントロールできることはたくさんあります。まずは、一緒に戦ってくれる選手を集めること。そして、実際の現場では、練習の質のチェック、監督がきちんと正しい声かけをできているかの確認、練習から試合当日までにモチベーションを上げていく過程をマネジメントするなど。勝因において、いわゆる戦術の要素は3割くらいなのではと考えています」

選手ではなくチーム主体で勝つ
—— それは、やはり選手時代の経験が役立っているのでしょうか?
「そうですね。選手のときに、うまくいかなかったときの対応力やチームの雰囲気が大切だと実感しました。いい選手を集めてきても勝てないことがあります。監督の采配で選手の能力を引き出せるかどうかは左右されます。力を発揮できずにいる選手を見てきたので、『そうならないように!』と、おこしやす京都では、チーム主体で勝つためのノウハウを残し、チーム文化を育成する仕組みづくりを目指しています」
—— その成果が先日の天皇杯での勝利。J1チームへの大金星ですね!
「私自身、漫画などでジャイアントキリングと呼ばれる、弱いチームが強いチームを倒す物語を見ていましたが、実際に自分が体験することになるとは(笑)。テレビやネットニュースでも〝ジャイキリ〟なんて、取り上げてもらえて、地域の企業様からも『何か手伝えることはないか』とお声かけをいただき、その波及効果は大きかったですね。ずっと支えてくれたファンのみなさんも盛り上がってくださり、恩返しができてよかったです」

サッカーにしかないおもしろさがある
—— 私たちも本当に興奮しました。添田さんにとって、サッカーのおもしろさはどこにあるのでしょうか?
「シンプルにボールを蹴る競技で、どうしてこんなにも魅了されるのか。90分の試合で、89分はうまくいっていても、ラスト一分で負けることもあるスポーツで、そこにドラマがあるからだと思います。クラブや選手の数だけ、浮き沈みのストーリーがあって、そこにファンの方が自分の人生を重ね合わせたり。だからこそ、天皇杯のような大金星があると、みんなで思いっきり喜びを分かち合って、感情を爆発させて……。本当に人生を共にするような、そんな魅力がありますね」
—— おこしやす京都の物語は、快進撃の真っ最中ですね。次は、どんなことで驚かせてくださいますか。
「まず、今期の目標は、Jリーグの下部リーグであるJFLへの昇格です。そして、2年後にJ3へ。地域に恩返しできるように、熱い気持ちでがんばりたいと思います。応援、よろしくお願いします!」



日本のプロサッカーといえばJリーグ、その最高峰はJ1です。今、全国でJ1から都道府県チームまで、チーム数は5079チームあります。J1から数えて5部にあたる関西サッカーリーグ1部に所属するのが「おこしやす京都AC」で、ランキングは全国で78位(2019年)。「京都サンガF.C.」に続くJリーグ入りを目指して、活動しています。


おわりに
サッカーへの思いを聞いていると、まっすぐで本当に熱い思いをお持ちなのだということが伝わってきます。
おこしやす京都ACからますます目が離せません!

企画・構成=楠石千晶
くすいしちあき●月刊『茶の間』編集部員。梅干しとみかんがおいしい和歌山県出身。幼少期から梅干茶漬けをこよなく愛す。そのおともにはアイドルと深海魚があれば言うことなし。