ブームの緑茶やカフェインレスのほうじ茶。ワインソムリエならどう飲んで、どう味や香りを表現する⁉︎お茶好きや日本茶インストラクター資格に興味のある人必見!講座では教われないお茶の違いや選び方、おもてなしのヒントになるテイスティング模様をお届け!
ソムリエならではのユニークな表現がおもしろい!

協力してもらったのは……
澤田 勇(いさむ)さん
京都のイタリアン、trattoria SALTINBANCO(トラットリア サルティンバンコ)のオーナーシェフ兼ソムリエ。お店はミシュランガイドの「ビブグルマン」(リーズナブルで優れたお店への称号)にも掲載。煎茶道を嗜んだ経歴も持ち、日本茶への理解も深い。

ソムリエとは、レストランで客の相談にのり、ワインを提供するプロのこと。独特な表現力と語彙力(ごいりょく)を持ち、ワインの味わいを花や果物、動物にまで例えます。ワインの知識の豊富さが必要とされ、料理との組合せの提案において真価を発揮します。
「お客様ごとに好みや予算はさまざまです。わずかな会話から汲みとり、希望に沿えるように。“お任せで”というオーダーが入ったときこそ、腕の見せどころですね」
オーナーシェフの風格漂う調理服に、金色のソムリエバッジ、はにかむ笑顔が印象的な澤田さん。
テイスティングをお願いしたのは、 全部で8種類の日本茶。蒸し時間を変えることで味わいに違いを出した深蒸し茶2種、茶葉を摘む時季によって微妙な違いを楽しむ若蒸し茶2種、そして、かぶせ茶、玉露、ほうじ茶、玄米茶です。
ワインのようにお茶をテイスティングしてもらったら……

ワイングラスを満たしているのはお茶ですが、澤田さんが慣れた手つきで持つと、まるで本物のワインのよう……。テイスティングは、目と鼻と口を駆使する、 ワインと同じ方法でなされていきます。



光にかざし見る、反時計回りに回して香りを嗅ぐ、口に含む・口中におく・飲み込むの各瞬間の変化を楽しみながら味を見る——、以上3つのステップでテイスティング。
舌の先や奥によって、味の感じ方が違うという澤田さん。その研ぎ澄まされた感覚で、何度も、果物やハーブなど、具体的になにと近しいかを思い浮かべながら味わっていき、一連の流れを、 8種のお茶ごとにくり返していきます。
ソムリエ流・お茶の種類ごとのおすすめの飲み方と、独特な表現!
「ワインを飲むときは、温度とグラス、2つの要素を大事にします。香りや渋み、旨みなど、味わい全体を左右するからです」
驚きなのは、澤田さんがお茶を淹れるときの温度と飲むときの温度を大きく変えたこと。そして、お茶の種類に合せて、複数の種類のワイングラスで飲み分けたことです。
「どのお茶も、飲むときの温度は常温か、もう少し温かいくらいがいいと思いました。よいワインほど常温で本来の味わいを生かします。茶葉から急須で淹れるお茶も、同じように飲みたいからです。
またグラスは、お茶の個性に合せて選びました。香りが豊かな煎茶4種は、大ぶりなブルゴーニュグラスで。どっしりとしたほうじ茶と玄米茶とかぶせ茶は、ボルドー用や白ワイン用の細めのグラスで。濃厚な玉露は、ブランデーの一種・グラッパ用の小さなグラスにしてみました」
下が、澤田さんがテイスティングして8種類のお茶ごとに導き出したおすすめの飲み方と、ソムリエ流の表現です。

「色気のあるボディ(※)に、
うっとりします」
「色気のあるボディ(※)に、
うっとりします」
【深蒸し茶(60秒蒸し)とは】
製茶の際、茶葉の蒸し時間を通常の30秒より長い60秒蒸し、抽出性をアップ。奥深い味わいです。
●淹れるときの温度:約80℃
●飲むときのおすすめの温度:約50℃
●おすすめのワイングラス:ブルゴーニュグラス
※「ボディ」とは、渋みや旨み、香りなどの味わい全体によって、ワインを3段階で表現する専門用語。渋みや味、香りが濃厚な「フルボディ」。味や香りのバランスに優れた「ミディアムボディ」。渋みが少なく軽やかな味の「ライトボディ」。感覚的に性格付けをすることで、飲み手にわかりやすくワインを勧めるためのツールの一つ。

「若草のように爽快。
ボディのバランスが最高」
「若草のように爽快。
ボディのバランスが最高」
【深蒸し茶(120秒蒸し)とは】
茶葉の形状が失われる極限手前まで蒸すことで、抽出性を格段にアップさせた煎茶。こってりとした旨みがあります。
●淹れるときの温度:約80℃
●飲むときのおすすめの温度:約50℃
●おすすめのワイングラス:ブルゴーニュグラス

「体にすっと染み渡る
フレッシュ感」
「体にすっと染み渡る
フレッシュ感」
【若蒸し茶(茶葉早摘み)とは】
短時間蒸し、本来の渋み苦みを活かした煎茶。春に芽吹いた若々しい新芽を使っているので、新鮮な香りです。
●淹れるときの温度:約80℃
●飲むときのおすすめの温度:常温(15℃)
●おすすめのワイングラス:ブルゴーニュグラス

「丸みを感じるボディの
万能選手ですね」
「丸みを感じるボディの
万能選手ですね」
【若蒸し茶(茶葉後摘み)とは】
一晩で約5cm伸びるほど成長期に入った八十八夜の頃の茶葉を使った若蒸しの煎茶。爽快な味わいです。
●淹れるときの温度:約80℃
●飲むときのおすすめの温度:約50℃
●おすすめのワイングラス:ブルゴーニュグラス

「比較的、超フルボディ!
陰干しぶどうの凝縮感」
「比較的、超フルボディ!
陰干しぶどうの凝縮感」
【かぶせ茶とは】
1週間前後、茶園に覆いをし日光を遮って育てた、まろやかな旨みの煎茶。香りを引き出す二段火入れ製法で仕上げられたものです。
●淹れるときの温度:約80℃
●飲むときのおすすめの温度:約50℃
●おすすめのワイングラス:白ワイングラス

「イノシン酸系(※)の出し汁 にも
似た余韻ですね」※鰹節の旨み成分のこと。
「イノシン酸系(※)の出し汁 にも似た余韻ですね」
※鰹節の旨み成分のこと。
【玉露とは】
かぶせ茶よりも被覆期間を長くして栽培した高級茶。こっくりとした旨み、とろりとした甘みが特長です。
●淹れるときの温度:約40℃
●飲むときのおすすめの温度:常温(15℃)
●おすすめのワイングラス:グラッパグラス

「南仏の赤ワインに通じる
ローストの香り」
「南仏の赤ワインに通じる
ローストの香り」
【ほうじ茶とは】
旨み成分が方法な「一番茶」を贅沢に使い、二段階の火入れで香ばしく仕上げたほうじ茶です。
●淹れるときの温度:約90℃
●飲むときのおすすめの温度:約40℃
●おすすめのワイングラス:ボルドーグラス

「玄米の香りがワインの
樽香に似ています」
「玄米の香りがワインの
樽香に似ています」
【玄米茶とは】
煎茶をベースに、かぶせ茶の粉末や香ばしい玄米、餅米をはじいた「花」をブレンドしたお茶です。
●淹れるときの温度:約90℃
●飲むときのおすすめの温度:約40℃
●おすすめのワイングラス:ボルドーグラス
ソムリエが選ぶ、No.1好みの日本茶とは……

人を褒めるような表現や、ワイン用語に当てはめた表現。アプローチの仕方からテイスティングまで、もちろん澤田さん個人の感覚によるところが大きいチャレンジでしたが、そのおかげで、お茶の新たな魅力を垣間見せてもらいました。
「ちなみに私が一番好きなお茶は、若蒸し茶(茶葉早摘み)です。素直で爽やかな味わいが、体にすっと染み渡りました。ワインの世界では、理屈も大事ですが、〝体にどう染みるか〟という、感覚的な要素も大切なんです。ワインでも“染みる”ものには滅多に出合えません。自分好みのお茶との出合いに、感謝しています」
澤田さんいわく、絶賛する若蒸し茶は、唯一、冷やしてもよいと思えたそうです。白ワインと同じように、爽やかさやフルーティさは、低い温度でも失われないからです。他にも、深蒸し茶の旨みはピュアだとか、かぶせ茶にぶどうのような風味を感じるとか、ほうじ茶のロースト香が五感を刺激するとか——。 ソムリエの感性をもってすれば、決して簡単ではないお茶を、これほど語ることができるのです。
おわりに……
ソムリエの“独断と偏見”でお茶の魅力を新発見する試み、いかがでしたか。ぜひこの記事を参考にして、あなたも自分好みのお茶を見つけてみてください。
(写真 竹中稔彦)
澤田さんのお店
trattoria SALTINBANCO
烏丸御池を一本北西に入った通りに佇むお店。イタリア料理激戦区とされる京都で約20年続く。地中海を思わせるおしゃれな店内でいただけるのは、和の食材も織り交ぜた絶品創作イタリアン。ランチ1,800円〜、シェフおまかせのディナーコース6,000円(いずれも税別)。アラカルトやワインメニューも充実。
【住所】京都市中京区押小路通両替町西入ル金吹町460ベルメゾン1F
【電話】075-213-5046
【営業時間】 平日ランチ11:30〜14:00(L.O.)、土・日・祝日ランチ12:00〜14:30(L.O.)、コースディナー 18:00〜21:30(L.O.) ※ア・ラ・カルトメニューの場合は22:00(L.O.)
【定休日】月曜、第3火曜
【HP】https://saltinbanco.jp

【住所】京都市中京区押小路通両替町西入ル金吹町460ベルメゾン1F
【電話】075-213-5046
【営業時間】 平日ランチ11:30〜14:00(L.O.)、土・日・祝日ランチ12:00〜14:30(L.O.)、コースディナー 18:00〜21:30(L.O.) ※ア・ラ・カルトメニューの場合は22:00(L.O.)
【定休日】月曜、第3火曜
【HP】https://saltinbanco.jp
◎合せて読みたい→ 【保存版】茶葉、急須、マナーなど、日本茶の疑問を解決!(前編)

取材・文=玉井雄大
たまいゆうた●月刊『茶の間」編集部員。滋賀県出身。自然や映画、銭湯、禅、詩、酒など“本質を語れるものごと”好き。茶道もその一環ですが、第一子誕生によりお休み中。今は流派にとらわれず、お家でセルフ抹茶を楽しみます。