お盆を使って自宅で初点(はつだて)。気軽なお茶会4つのヒント

今、おうち時間を豊かにするものとして、お茶がますます注目されています。家にある日用品を活用して、新年のお茶のひとときを楽しむヒントを京都在住のお茶人・ふくいひろこさんに教えてもらいました。今回使うのは、なんとお盆。お正月飾りやお菓子を飾る工夫をご紹介いたします!

お茶点てる
ふくいひろこさん

教えてくれる人
ふくいひろこさん

京都市出身。茶道や京都にまつわる書籍編集などに携わる。
旅先で出合ったうつわや身の回りのさまざまな道具を見立てて、自由にお茶を楽しんでいる。https://suiensha.com/

お盆を使ってテーブルでおうちで気軽に初点(はつだて)を

「日々の一服、旅先での一服、友人宅でのパーティーに、お気に入りのお茶道具一式を詰めた茶箱を持っていき、お茶の時間を楽しんでいます」。

そう話すふくいひろこさんは、幼い頃から茶に親しみ、茶道や京都関連本の編集者としても活躍されています。茶道具のみならず、見立ての道具をふんだんに使い、日常で楽しむお茶を提案しているふくいさん。とくに茶箱好きが高じて、著書『はじめての茶箱あそび--「自分だけのひと箱」の組みかた』(世界文化社)を数年前に上梓。自分だけの茶箱の組み方や茶箱の魅力を伝えています。「お茶のおもてなしをしたい、と思ったときに、私には自分のお茶室がありませんでした。でも、茶箱一つあれば、どんな場所でも〝わたしの茶室〟になると気付いたのです」とふくいさんは話します。

 

日用品を見立てて、茶箱を組む達人のふくいさんに、おうちにあるものの上手な活用法を教えていただきました。「足りないアイテムを身近なもので補っているだけ。それが皆様のお茶時間のヒントになればうれしいです」。今回、ふくいさんが選んだ〝おうちにあるもの〟が「お盆」です。

「お盆はどこのおうちにもあるものだと思いますが、茶会では懐石で活躍します。たとえばテーブルのお茶でしたら、お正月飾りをのせたり、お菓子を盛ってみるのにも使うと和の気分が盛り上がるのではないでしょうか」。茶の湯では、年が明けて最初に行なわれる茶会を「初点(初釜とも)」と呼びます。新年の清々しい空気の中、懐石料理やお酒、和菓子と一緒に楽しむお茶は、格別に贅沢。そんな年あらたまりの茶の湯の気分をおうちで楽しむためのヒントを教えてもらいました。

「大切にしたいのは茶の湯がもつ〝清浄さ〟。飾りやお茶をそのままテーブルの上に置くのではなく、お盆などを間に挟むことで、お茶の空間がキリッと引き締まります」。

実際にお盆を使った初点のしつらえをご紹介しましょう。新しい一年の始まりに、初点の気分を取り入れて、清々しいお茶のひとときを楽しんでみませんか。

【ヒント1】お盆に炭飾りをのせましょう

炭飾り

茶の湯では、正月の縁起物として炭を飾ることがあります。炭は、茶を点てる際、湯を沸かすのに欠かせないものであり、感謝の念を込めて飾られてきました。

茶室では床の間に飾りますが、おうちで楽しむ際には、小さめの炭飾りを、お盆の上にのせるとよいでしょう。白い紙を敷くことで、より清浄さを表すことができます。モダンなお盆を使えば、洋風の空間にもぴったり。炭以外にも(だいだい)や(ぶっしゅかん)のようなくだものを飾っても素敵です。テーブルの端や中央に置くだけで、初点の清々しい空気が漂います。

【ヒント2】大福茶はお盆で取り回してもらいましょう

大福茶

茶会でお客様が揃ってすぐにお出しするのが「汲み出し」です。白湯や香煎などでまずはほっとひと息ついていただきます。

お正月の汲み出しには、梅と昆布を入れた大福茶がおすすめです。京都では、一年の邪気を払い新年を祝福するための最初のお茶として、お正月に大福茶を飲む習わしがあります。

茶会では、汲み出しに通常茶托は添えず、お盆に載せてそのままお出しします。その気分で、あえて茶托はなしにしました。縁起のよい朱色のお盆や寿の文字が書かれた汲み出しで、おめでたい取り合せにしています。

【ヒント3】塗りの折敷は菓子器にもなります

菓子器

おめでたい朱色の折敷を主菓子の器に。

折敷は懐石に用いる盆の一種で、通常はこの上にお椀などの器をのせて使います。折敷を使うことで洋の空間でも、茶の湯の和の雰囲気を感じさせることができるでしょう。またテーブルで取りまわす場合、背の高い菓子鉢などよりもこのように平たい器のほうが、菓子が取りやすいという利点もあります。菓子は正月ならではの花びら餅。取りまわしていただく際、手前から取ることを考慮して並べます。懐紙や黒文字を添えておくと親切です。

【番外編】濃茶(こいちゃ)は各服点(かくふくだて)に

各服点

昨年からの大きな世界の変化の中で、茶の湯の作法も変わったところがあります。その一つが濃茶。濃茶は、複数人で飲みまわしてきましたが、「各服点」がこれからのスタンダードに。一人ひとりに、濃茶を練ってお出ししましょう。

【ヒント4】お薄とお干菓子は一人ひとりお盆にのせてお出ししましょう

お薄とお干菓子

初点の最後を飾る薄茶には、おめでたい意匠のお干菓子を添えました。このとき、一人ひとりのお茶とお菓子をお盆にのせてお出しすると、テーブルの上でもすっきりとスムーズに。

茶碗がないときは、カフェオレボウルなどを茶碗に見立てて使ってもよいでしょう。ここではお正月らしく、羽子板型の点心盆にのせて和風にしてみましたが、モダンなお盆にのせて洋風にしても。お盆の大きさによっては懐紙を敷いて、スペースを調整すると美しくまとまります。

お薄とお干菓子

いろいろなお盆を使って初点を楽しんでください!

茶の湯において、とても大切な行事である「初点」。初釜ともいわれ、茶道を学ぶ人にとっては一年の稽古はじめとなります。

正式な茶事形式に則れば、待合で「汲み出し」が出され、ひと息ついてから、お正月のしつらえがされた茶室に席入りします。掛け物や花入、釜を拝見し、釜に炭を入れる様子を見守る「炭手前」を経て、お正月の懐石料理やお酒が振る舞われます。食事の最後に主菓子をいただいてからいったん席を立ち、その後、客は二度目の席入りをしてから、濃茶をいただきます。再び炭を改め、最後にお干菓子と薄茶をいただいて終了となります。

正式に初点をするとなると、準備がとても大変ですが、おうちで楽しむ場合には、今回ご紹介した「正月飾り」や「大福茶」、そして抹茶をいただく「濃茶」「薄茶」などに焦点を当てると、カジュアルながらも茶会の雰囲気が味わえるのではないでしょうか。もちろん茶の前に、懐石の代わりにおせち料理やお酒をいただくと、さらにおめでたい席に。お手持ちのいろいろなお盆を使って、楽しんでみてくださいね。

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(写真:岡森大輔、文:大村沙耶)

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企画・構成=大村沙耶
おおむらさや●月刊『茶の間」編集部員。福岡県北九州市出身。休日は、茶道や着付けのお稽古、キャンプや登山に明け暮れる。ミーハーだけど、伝統文化と自然を愛する超ポジティブ人間。