暑い季節は、暑いからと冷たい飲み物ばかり飲んでいませんか。それでは内臓が冷えて、からだの不調につながることも! 夏は特に蒸し暑く、過ごしにくいことで有名な京都で、心身の健康のため、一年中あたたかいお茶を楽しんでいる4人の京都人にお話を伺いました。

「涼やかな絵柄を選んで、夏にも急須茶を楽しんでいます」
「涼やかな絵柄を選んで、
夏にも急須茶を楽しんでいます」
大西常商店 大西里枝さん
大西常商店 大西里枝さん

【HP】https://www.ohnishitune.com
京扇子の製造、卸、小売までを行なう「大西常商店」の4代目である大西里枝さん。夏は扇子の繁忙期であり、1年で最も忙しい時期。「今年はコロナ禍ということもあり、例年ほどではありませんが」と言いながらも、毎日、仕事に大忙しの大西さん。朝、仕事に向かう前の習慣は、熱いお茶を飲むことだそうです。
「わが家の朝は、家族それぞれが好きなものを自分で飲みます。私は急須でお茶を淹れていただいています」というのも、朝一番に冷たいものをからだに入れると芯から冷えてしまうため、朝にあたたかいものを飲むことを心がけているのだそう。
仕事中も極力、冷たいものを飲むのではなく、急須で淹れたお茶を常温にして、水分補給をしています。
「お店を構えている商家の京町家では、エアコンを設置できない部屋もあり、夏はとても暑くなります。さすがに汗をかきながら熱々のお茶というわけにはいきませんが、冷たいものを飲み過ぎるとからだがだるく、疲れやすくなってしまうので、冷ましたお茶を何度も飲むようにしているんです」
また、「お店の2階では、週に一度、お能のお稽古があります。そちらの生徒さんたちには、やかんで沸かしたほうじ茶を少し冷ましてからお渡ししています」

そんな大西さんがお茶を飲むときにこだわっているのが急須の絵柄。
「夏には夏らしい、涼やかなものを選びます。季節で急須を変えるのもお茶の楽しみ方の一つかなと思います」
京扇子のプロが実践する、四季の風情を取り入れたお茶時間。夏の急須茶を楽しむきっかけに、ぜひ参考にしてみてください。
「昔から熱いお茶をよく飲む子どもで、家族内で一番大きな湯呑を使っていました」
「昔から熱いお茶をよく飲む子どもで、
家族内で一番大きな湯呑を使っていました」
狂言師 河田全休さん
狂言師 河田全休さん

河田全休さんと狂言の出合いは1999年。京都大学入学と同時に、「京都学生狂言研究会(KGKK)」に入会したのがきっかけだといいます。
「当時は中学生の頃からやっていた囲碁のサークルに入ろうかな、と思っていたくらい。狂言についての知識はほとんどありませんでした」と、河田さん。それが、大学卒業後の1年ほどのサラリーマン時代を除いては、常に狂言と向き合う人生を選ぶことになろうとは! 狂言師の家系でない遅めのキャリアスタート、厳しい道のりだったことは想像に難くありません。
そんな河田さんの苦楽の日々の傍らにあったのが、取材時に持参された茶筒です。これは、大学に入りたての一人暮らしを始めた頃、明石の実家から届いたもの。昔から熱いお茶を好んで飲んでいた河田さん。
「実家では、あまりにもお代わりを頼む回数が多かったせいか、4人兄弟の中で僕だけ、寿司屋さんみたいな大きな湯呑を与えられていました」と笑います。河田さんのお母さんにとって、我が子へ仕送りの食料とともに、茶筒入りのお茶を送るのは自然なことだったのでしょう。
そして今も、河田さんのお茶好きは相変わらずです。

「急須を使ってお茶を淹れると、香り立つのが好きです。この香りを嗅ぐだけでも気分がよくなりますよね。常時、煎茶の葉は2〜3種用意して楽しんでいます」
朝起きたとき、晩ご飯とともに、夜のくつろぎタイムに……と、少なくとも1日3回、また舞台があるときにはその合間にも。季節を問わず、河田さんの暮らしに、熱いお茶は欠かせません。

「お茶を淹れて、ひと息つく。心とからだが整うのって、大切です」
「お茶を淹れて、ひと息つく。
心とからだが整うのって、大切です」
衣裳家・服飾デザイナー 鷲尾華子さん
衣裳家・服飾デザイナー 鷲尾華子さん

以前は「劇団四季」の衣裳部で、『ウィキッド』『アイーダ』『コーラスライン』といった数々の有名作品の衣裳デザイン・製作などに携わっていた鷲尾華子さん。独立後の現在も、演劇はもちろんバレエや伝統儀式など多方面からのオーダーが引きも切らないそう。取材に伺ったアトリエにもフィッティングに向けて準備中のステージ衣裳がかかっていて、プロの〝現場感〟が漂います。
早朝から深夜まで多忙では? と尋ねると、「追い込みのときは別ですが、普段は朝8時頃に仕事場に入り、日が暮れる午後6時くらいには仕事を終えます」と、こちらの勝手なイメージを軽やかに裏切るお返事。また鷲尾さんは、可能なかぎり、約1時間の昼食時間と、午後3時から約30分の休憩時間を取るといいます。

「アシスタントさんが来てくれている日は、『3時です!』と宣言して(笑)、いそいそとお茶を淹れにいくんですよ」
用意するのはいつもあたたかい飲み物。胃腸が弱く、内臓を冷やしたくないのと、自律神経の乱れも気になるため、「暑いときこそ、熱いお茶を」との思いがあるのだとか。
「湯気の立つお湯呑を手に、お茶を飲むリラックス効果はなにものにも代えがたいですね。アシスタントさんに『30分休憩は長いのでは』とツッコまれることもあります」と微笑む鷲尾さん。……でも、と、話を続けます。
「精神論かもしれませんが、つくり手の追い詰められた気持ちは、作品にも反映されてしまうと思います。主役となる方々に着てもらうのだから、〝気持ちのいいもの〟をつくりたいですね。緩急をつけて休み、心もからだも整えて向き合うのが、よい仕事につながります」

「忙しくても熱いお茶を飲めば、気持ちに余裕が生まれます」
「忙しくても熱いお茶を飲めば、
気持ちに余裕が生まれます」
写真家 北奥耕一郎さん
写真家 北奥耕一郎さん

【HP】北奥写真美術館https://www.museum.ne.jp/kitaoku/index.ja.htm
「私は“京艶(きょうえん)”をテーマに写真を撮り続けています。神社仏閣のきれいに整えられた庭園や伝統的な祭りごとなど、歴史あるものには必ずと言っていいほど人の手が入っています。私はそれこそが京都の美であり、その美しさに艶があると思うのです」と話すのは、京都で写真家として活躍する北奥耕一郎さん。50年近くにわたり、京都のさまざまなシーンを切り取り、カメラに収めてきた北奥さんに、撮影時のポイントを伺いました。
「例えば同じ場所や同じ祭事であっても、今年と去年では空気感が違いますから、同じ写真は絶対に撮れません。その時々の出合いや縁を大切にして撮影しています」
そんな北奥さんは、撮影や仕事の合間などちょっとひと息入れたいなと感じたら、急須で淹れた熱いお茶を飲むのだそうです。

「暑いとどうしても冷たいものが欲しくなりますが、からだが冷えてしまいます。私はそれが苦手で。熱いお茶はからだをいたわれますし、どれだけ忙しくても、熱いお茶をひと口飲めば、不思議と心がホッと落ち着きます。気持ちに余裕が生まれ、『さぁ、もう一丁がんばろう!』という気分が湧いてきます」
また食事の際はより熱めに淹れて香りを楽しみ、大好きな甘いものを食べるときは濃いめに淹れてお茶の旨みとお菓子の甘みのバランスをとるなど、その時々で淹れ方を変えて味わっているのだとか。
「千年を超える歴史を持つ京都のすべてを、50年やそこらじゃ撮りきれない」と笑う北奥さん。これからもカメラ片手に京都の艶を探す傍らには、いつも熱いお茶があることでしょう。

おわりに
4人それぞれのあたたかいお茶が好きな理由、楽しみ方、いかがだったでしょうか。急須であたたかいお茶を淹れれば、からだによいだけでなく、自然と心も落ち着いてくるから不思議です。みなさまもあたたかいお茶で健やかな毎日をお過ごしくださいね。
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(写真 福尾行洋 津久井珠美 / 文 市野亜由美 岡田有貴 前田尚規)

企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。