仕事や家事の合間にお茶を飲んでひと休み。緑茶の香りにリラックスして、ホッとやすらぎを覚えます。このお茶の香りと癒しの成分・テアニンについて、食品成分と脳機能の研究をされている横越英彦先生にお話を伺いました。これであなたもお茶博士になれる!
農学博士
横越英彦先生
よこごしひでひこ●1970年京都大学農学部卒業、1975年名古屋大学大学院農学研究科農芸化学科博士課程修了。静岡県立大学名誉教授。テアニン研究の第一人者。
テアニンとは、茶葉の中に多く含まれるアミノ酸の一種で、お茶の旨み成分と考えられています。その化学構造は脳内の神経伝達物質の一つグルタミン酸に似ているため、テアニンにも自律神経や気分などへの生理的作用が期待されています。歴史は古く、1950年に京都府立農業試験場茶業研究所(現在の京都府農林水産技術センター・農林センター茶業研究所)の研究で玉露から発見。お茶に含まれるアミノ酸なので、お茶の旧学名「Thea sinensis」に因んで「テアニン」と名付けられました。
被覆(ひふく)栽培で守られる!
テアニンは、玉露や抹茶に多く含まれています。これらのお茶は「被覆栽培」といって、収穫前に茶畑全体を葦簀(よしず)や藁などで約20日以上覆い、直射日光を遮る方法で栽培されます。遮光することによってお茶の苦み成分の元となるカテキン類の生合成が妨げられ、旨みが際立つのです。この旨みの正体こそ、テアニンなのです。
根っこでつくられ茎を通る!
茶葉に含まれるアミノ酸は、テアニン以外にも約15種余あり、合計で約3%平均して含まれていますが、その中でテアニンが約50%を占めています。お茶に含まれるアミノ酸は、新芽の成長に従って減少。一番茶にもっとも多く含まれています。また、テアニンは茎にも多く、これは根で生合成されて茎を通って葉に運ばれるためだと考えられています。
「実家では、あまりにもお代わりを頼む回数が多かったせいか、4人兄弟の中で僕だけ、寿司屋さんみたいな大きな湯呑を与えられていました」と笑います。河田さんのお母さんにとって、我が子へ仕送りの食料とともに、茶筒入りのお茶を送るのは自然なことだったのでしょう。
そして今も、河田さんのお茶好きは相変わらずです。
お茶の味の成分は、おおまかに渋みや苦みがカテキン類、旨みや甘みがテアニンを代表とするアミノ酸から構成されます。カテキン類を多く含む煎茶に対して、テアニンは被覆栽培によって栽培された玉露や抹茶などに多く含まれています。その味は、玉露がもっとも感じやすいお茶だといえます。口当たりはとろんとまったりしたコクと甘みが印象的です。人によっては「まるで高級な出汁のような甘さ」と感じることもあります。
渋みを感じるお茶、甘みのあるお茶、どちらの味わいがよいかは好みによるところ。味の成分を意識して、好みの味のお茶を見つけてみてください。
テアニンの注目されている最大の要素は、リラックスに期待できることです。テアニンは腸管から吸収され、血液で脳にまで運搬される数少ない成分であることが研究されています。また、テアニンを摂取すると、心がゆったりした気分やリラックスに役立つことが期待されています。他にも実験から翌朝に違いを感じるといった事例も報告されています。
何かと忙しい現代社会、さまざまな要因でストレスを抱えている人が多い世の中です。そんなときこそ、テアニンの含まれるお茶を飲んでリラックスに役立てましょう!
複数の香り成分が組み合さって、醸し出されるお茶の香り!
そんなテアニンに含まれるリラックス成分はお茶の香りでも得ることができます。
お茶の香気成分については、多くの研究者によって多数の成分が報告されており、300種類とも600種類ともいわれています。代表的な成分を挙げると、一般に青葉アルコールといわれ、木の葉や草の葉などをちぎったときに感じるような、緑の香気を有する「ヘキセナール」、レモンやバラのようなフローラルな香りを有する「ゲラニオール」、香ばしい香気を与える「ジメチルスルフィド」などがありますが、緑茶らしい独特な単一成分はありません。すなわち緑茶の香りというのは、複数の香り成分が合わさってつくり出されているのです。
煎茶や玉露、番茶などは、明らかに香りが異なります。しかしながら含まれている香り成分は非常によく似ており、わずかな違いか、あるいは、それらの成分の組合せにより、特長的な香りを醸し出していると考えられます。
リラックスした状態を保つために
緑茶をはじめ、コーヒー、ウイスキー、香水などの香りが自律神経系やメンタルにどのような影響を与えるのかといった研究は、相当詳細になされています。自分が好きな、あるいはよい香りをかぐと、気分が安らぎ、リラックスします。これは、自律神経の副交感神経系が優位になった場合です。
横越先生の研究では、リモネンなどの柑橘香気成分をヒトボランティア(被験者)に与えたところ、α(アルファ)波の放出が高まり、また、気分が休まることを明らかにしました。また、ラット(実験動物)に与えたときには、脳内の神経伝達物質のドーパミンが増加するなどの影響を観察しました。さらに、緑の香気を有する成分であるヘキセナールをラットに投与した実験では、ラットの穏やかさに関わっていることがわかりました。
鼻の奥には、嗅覚受容体という香りを感じるセンサーが約400種類存在していて、そこに香り成分がはまると脳へと送られ、脳の活性化につながるのです。
仕事の多忙さやストレスなど、気分が高まっているときには、交感神経系が優位になり、休まりづらい状態です。そこで、リラックスした状態を保つため、自分の好きな香りを持つお茶を飲むことが、その一助となるかもしれません。
なにかとストレスを感じることが多い昨今ですが、緑茶の品種の違いによる特有の香り、茶香を楽しみながら、心の安らぎを引き出してみてはいかがでしょうか。
お茶をおいしく淹れるには水温が重要です。お茶の成分は水温が高くなると溶出率は上がりますが、テアニンは温度が低くても溶出されやすく、20℃でも約25%程度出ます。それに対してカテキン類は湯温が低いと出にくく20℃では約1.6%の溶出率です。このことから低い温度ほど、テアニンの甘みを感じやすいお茶が淹れられ、高い温度だとテアニンも溶出されるものの、カテキン類も多く抽出されるので苦みの強いお茶になるということです。テアニンをより感じられるお茶が好みの方は、水温を低くして淹れてみましょう。
◉ 湯冷ましで
あたたかいお茶でテアニンを感じたいときは、湯冷ましで人肌程度に冷ましたお湯で淹れるのがおすすめです。お茶を淹れる時間もリラックスタイム。話題の癒やしと旨み成分・テアニンで心もからだもリフレッシュしましょう。
◉ 水出しで
次は「水出し」の方法です。ポットなど茶葉を入れて水を注ぎましょう。5〜6時間ほどかかるので、夜につくって冷蔵庫で寝かせておけば翌朝にはできあがり。じっくり時間をかけた分、甘く感じます。
◉ 氷出しで
もっとも水温を下げたお茶を淹れるなら「氷出し」がおすすめです。茶葉を入れた急須に氷を入れて、じっと待ちましょう。氷が溶けるごとにじんわりとお茶が抽出されます。安価なものでもテアニンがしっかり溶出されて、まるで高級な玉露のような深い甘みを感じられます。
そんなテアニンに含まれるリラックス成分はお茶の香りでも得ることができます。
お茶の香気成分については、多くの研究者によって多数の成分が報告されており、300種類とも600種類ともいわれています。代表的な成分を挙げると、一般に青葉アルコールといわれ、木の葉や草の葉などをちぎったときに感じるような、緑の香気を有する「ヘキセナール」、レモンやバラのようなフローラルな香りを有する「ゲラニオール」、香ばしい香気を与える「ジメチルスルフィド」などがありますが、緑茶らしい独特な単一成分はありません。すなわち緑茶の香りというのは、複数の香り成分が合わさってつくり出されているのです。
煎茶や玉露、番茶などは、明らかに香りが異なります。しかしながら含まれている香り成分は非常によく似ており、わずかな違いか、あるいは、それらの成分の組合せにより、特長的な香りを醸し出していると考えられます。
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(文 前田尚規・新見麻由子 写真 平谷舞)
取材・文=新見麻由子
にいみまゆこ●月刊『茶の間」編集部員。徳島県出身、歴史や文化、レトロなものに憧れて京都へ。休みの日は、散歩や自宅でお茶を片手に本を読みながらまったり過ごしたい。季節を感じる和菓子やお花に興味がでてきた今日この頃。