2月4日は立春。「二十四節気」の最初の日でもあるこの日は、旧暦では新しい年の始まりとされていましたが、まだまだ寒く、春が待ち遠しい季節です。京の底冷えにも負けず、各界で大活躍の元気な4人に、お茶にまつわる思い、仕事の話などをお聞きしました。
「抹茶・煎茶を通じて、昔の人の感覚に思いを馳せています」
日本美術史学研究者 太田梨紗子さん
日本美術史学研究者 太田梨紗子さん
2月のお茶というと、まず北野天満宮のことが頭に浮かんだと太田梨紗子さんは話します。
「実家が上七軒にあったので、幼い頃は境内が遊び場でした」
茶人としても知られる父・達(とおる)さんは、門前にある京菓子のお店「老松(おいまつ)」当主。梅花祭の時期などには苑内の茶店で芸舞妓さんが点てたお茶を運ぶといったお手伝いも、太田さんにとっては自然なことだったそう。
ただ、太田さんが、自身でお茶を習い始めたのは5年ほど前。
「遅いですよね(笑)。昔からお茶は身近な存在だけに、『だからって何でやらないといけないの』と。父も強要しない方針でしたし」
紅茶が好きで、“アメリカン・ティーンエイジャー”に憧れていた太田さんですが、20歳頃に江戸時代の絵師である伊藤若冲の絵画に惹かれ、研究を始めたことが転機に。
「日本美術とお茶はとても関わりが深いんです。若冲は当時の煎茶ブームの真っ只中にいて、その仲間なんかは旧来の抹茶の悪口をめちゃめちゃ言う。でも、それって抹茶のことをよく知っている証でもあります」
いま、太田さんにとって抹茶・煎茶の稽古は、本を読んでいるだけでは分からない、昔の人が何にこだわっていたのか、その感覚に思いを馳せることができる時間だとか。
「まわりまわって、子どもの頃からなじんでいたお茶のあれこれが腑に落ちるという感覚も味わっています」
「熱々のお茶が欠かせない家。親から受け継がれています」
華道家 奥平祥子さん
華道家 奥平祥子さん
熱々の、おいしいお茶を愛する生粋の「江戸っ子」として育ったと、朗らかに笑う東京出身の奥平祥子さん。
「母がいけばなの家元で、物心ついたときからその姿を見てきました。大きな花材を扱うのは肉体労働であるとともに、集中力も必要。出かける前には、軽く何かつまんで、熱いお茶でおなかを温める、その習慣は私も受け継いでいます」
帰宅後も、まず一番にするのがやかんを火にかけること。身じまいをするうちにお湯が沸騰し、お茶を淹れるのだとか。
「キリッと締めるにしろ、ホッと緩めるにしろ、まず、お茶なんです」
奥平さんが、京都で暮らし始めたのは約4年前。京都市の北部山間にある京北町で夫・吉田修也さんとともに農業を営むためでした。
「すぐ、都会に戻りたくなるのではと、友人たちに心配もされたけれど、全然! 住むほどに、この地に惚れ込んでいきます」
というのも、奥平さんが慣れ親しんだ「石草流(せきそうりゅう)」は、石=変わらないもの、草=時々刻々と変わるもの、という陰陽の調和を写しとることを大切にする流派。ダイナミックな京北の自然に触れ、〝学びなおし〟のように感じているそう。
当初はいけばなの活動は東京のみでしたが、野菜の納品先などから、京北の稲穂や丸太などを花材とした生けこみの依頼も受けるように。奥平さんの活動の幅と地元愛はさらに広がっていきそうです。
「元気に仕事をする秘訣は朝ごはんと毎朝の冷茶です」
会社経営者 奥村香理さん
会社経営者 奥村香理さん
京都市に本社を置く「クリーンショップおくむら」で代表を務める奥村香理さん。
コロナ禍でクリーニング業界全体が大変な中、「洗うことで心が豊かになり、毎日の暮らしがアップデートされるような場所をつくりたい」が目標。
2021年春には、これまでの〝クリーニング屋さん〟の概念をくつがえし、顧客の注文に応じて洗い方や仕上がりを提案する同社のコンセプトショップ「cco(クコ)」をオープンさせました。そんな奥村さんの毎日は、とにかく大忙し。1日を元気で過ごす秘訣を聞いてみると……。
「朝ごはんですね。バタバタしていると、昼食を取り損ねることもあるので、朝はしっかり食べます。メニューはご飯、みそ汁、納豆、その日のおかずが数品。子どものお弁当の残りを朝食にしていたのがきっかけですが、今では私の習慣になっています」
そこにもうひとつ。毎朝、冷たい日本茶を飲むそうです。
「ご飯には、やっぱりお茶。冷たいと目が覚めるような爽快感があります。朝は冷たいお茶派です」とも。
また、お茶好きの奥村さんはショップ用にグリーンティーの香りがするアロマディフューザーを開発。
「クリーニングもそうですが、香りの効果って絶大です。日常生活にちょっとした豊かさや贅沢を感じさせてくれる気がします。特に緑茶にはリラックス効果があり、お店に来るたび、この香りに癒されています」
1日をお茶でスタートさせ、仕事中は緑茶の香りでほっこり。忙しい社長業の傍らには、いつもお茶が寄り添っています。
「好きな香りを添えてゆっくり。お茶とアロマに癒されています」
アロマセラピスト 岡田恵さん
アロマセラピスト 岡田恵さん
京都市・聖護院にある助産所でアロマセラピストとして活動する、岡田恵さん。
アロマセラピーとは、エッセンシャルオイル(精油)を駆使して心身の不調を整える自然療法のこと。助産所での施術を始めたのは「産前産後のお母さんに、元気でいてほしいから。お母さんが笑顔だと、ご家族も元気で過ごせます」とニッコリ。
「育児や仕事で忙しくても、少しくらいは自分のために時間をつくっていただきたいですね。そんな癒しのひとときにぜひ試してほしいのが、お茶時間にアロマを添える〝簡単リラクゼーション〟です」
用意するものは、温かい緑茶とアロマオイル、そして熱湯を入れたコップの3つ。コップにアロマオイルを2〜3滴入れて香りが立つのを待ちます。その香りをかぎながら、緑茶をいただくのです。
「緑茶の香りだけでもリラックスできるのですが、相性のよい香りを添えてあげることで、その効果がより一層高まります。特に、生姜や柚子のアロマオイルは、茶の風味を邪魔せず、お茶そのものの味わいも楽しむことができます」
岡田さんも子どもの昼寝中や、夜、子どもが寝たあとにお茶を淹れて、ひと息つく時間を設けているそう。
「わが家は子どももお茶をたくさん飲むので、カフェインが含まれていないほうじ茶が多いですね。ほうじ茶特有の香ばしい香りも、心を穏やかにしてくれる気がします。好きな精油の香りを見つけて、日々のお茶時間に取り入れてみてください」
四者四様のお茶時間の楽しみ方、いかがだったでしょうか。まだまだ寒い季節は、急須で淹れたあたたかいお茶をいただいて、元気な毎日をお過ごしください。
(写真 杉本幸輔 武甕育子 三好治輝 / 文 市野亜由美 岡田有貴)
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企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。