磁器と陶器は違う?今さら聞けない、やきもの超初心者の疑問を解決!

すてきなお茶時間に欠かせないのが急須や湯呑などのやきもの。お茶とも深い関わりのあるやきものですが、常滑焼、有田焼、京焼、美濃焼、益子焼……と種類がいっぱい。それぞれどんな特徴や違いがあって、産地がどこか、知っていますか? 産地の背景や特徴を知れば、これからの茶器選びがますます楽しくなるはずです。

急須2

やきものの歴史にはお茶が深く関わっていた! お茶文化を支えたやきものの発展

世界でも古い歴史をもつ日本のやきもの文化のはじまりは縄文時代。粘土を使い、文様を施した縄文土器の誕生です。弥生時代から古墳時代には大陸からの影響を受けた土器が使われます。5世紀には朝鮮から高温で焼く須恵器(すえき)が、7世紀には唐から釉薬(ゆうやく)の技術が伝わりました。

平安末期から鎌倉時代に、陶器の中心的な産地「六古窯(ろっこよう)〈瀬戸(せと)、常滑(とこなめ)、信楽(しがらき)、越前(えちぜん)、丹波(たんば)、備前(びぜん)〉」が登場。現代まで生産が続いています。

そして、室町時代から安土桃山時代は「茶の湯」の流行とともに独自のやきもの文化が花開きます。この時代は、まさに陶器文化の黄金時代。文化を重んじる日本独自の美意識が生まれ、千利休(せんのりきゅう)が「侘(わ)び茶」と呼ばれる茶の湯の様式を完成。素朴な趣のあるものが好まれるようになり、和物の地位が急上昇します。桃山時代には、千利休の手がけた樂茶碗や美濃(みの)の志野(しの)、織部(おりべ)など、茶道具の名品を産出する窯が次々に現れました。

そして豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に半島からつれてきた陶工が、西日本各地で窯を開き、日本のやきもの製造の技術力や生産力は飛躍的に向上しました。17世紀初頭になると肥前有田(ひぜんありた)で磁器の焼成に成功し、19世紀初め頃には全国各地でも磁器が生産されるようになります。磁器が庶民の間にも流通し、日本のやきもの文化は豊かになっていったのです。

押さえておきたい“やきもの”の基本。 知っていれば、選ぶ楽しさが広がります。

 陶器と磁器の違い 

やきものには、大きく分けて陶器と磁器があります。

陶器は、陶土(とうど)という粘土が原料で、「土もの」と呼ばれます。粗い素地(きじ)を低めの温度で焼き、光を通しません。全体的に厚みがあり、どっしりと温かみのある印象です。産地によって土の成分が違い、釉薬の種類も豊富なので、器によりさまざまな個性が見られます。瀬戸、美濃、萩(はぎ)などが主な産地です。

磁器は、白くて硬質の陶石を砕いたものが主な材料で、「石もの」と呼ばれます。薄くて硬く、指で弾くと「チン」と澄んだ高い音がします。素地の色は基本的に白く、光を通す性質があり、透明感が魅力のやきものです。土の表情を楽しむことが多い陶器に比べ、染付(そめつけ)や上絵(うわえ)などで絵柄が施されることが多いのが特徴です。有田や九谷(くたに)、瀬戸などが有名な産地です。

磁器
陶器

 さまざまな表情を生む加工技術 

やきものの表情を生み出す装飾技法。

でこぼこがあるもの、ツルッとしたもの、華やかな絵が描かれたもの、自然の素朴な色合いのもの……。さまざまな加工技術によって、個性あるやきものが誕生します。素地の形を変えたり、表面をコーティングしたりと、その技法を知れば、奥深いやきものの世界に一歩踏み出せます。

 素地きじの加工 ▼
焼く前に施す装飾。削ったり、違う色の土を化粧がけしたりして加工する。表面を削って文様を出す「かき落とし」の技法などがある。

 絵付えつけ
やきものに絵を描くことを「絵付」という。釉薬をかける前に描く「下絵付」と、焼いたあとに描く「上絵付」がある。

 施釉せゆう

ガラス質の膜でコーティングする「釉薬」をかける。灰釉や鉄釉など、多くの種類がある。光沢感や、多彩な色を表現する働きなどがある。

 やきものの代表的な産地 

日本にはやきものの産地が数多くあります。長い歴史のある「六古窯」をはじめ、よい陶土や陶石が採れる場所で、やきものが盛んにつくられてきました。現代では、土を取り寄せたりすることもできますが、それぞれの産地では、昔から続く窯場や伝統を引き継いでいるところや人も多くいます。産地ごとにその特徴を知ると、歴史や伝えられてきた技術がより深くわかり、やきものがもっと楽しくなります。

ここで紹介した以外にも、多くの場所でつくられていますので、ぜひその土地その土地の特色あるやきものを楽しんでください。

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京焼/清水焼

京都の窯でつくられる陶磁器全般を指す(樂焼を除く)。継承されてきた繊細な絵付や優美な造形、各地から取り入れられた時代ごとの新しい技術が共存し、現代も手仕事にこだわり続けている。

有田焼

日本で初めて磁器を産出した産地。有田焼は、出荷が始まった当初、有田に隣接する伊万里港から各地に出荷されたため、伊万里焼とも呼ばれていた。透き通るような薄手の白地に、繊細な染付や色絵が施されたものなど、さまざまな表現技法があり、その様式には古伊万里、柿右衛門、金襴手、鍋島など多数ある。中でも、柿右衛門様式や、古伊万里様式の磁器はヨーロッパの王侯貴族の間で絶大な人気を博した。ヨーロッパを代表するドイツの「マイセン」やイギリスの「チェルシー」などにも大きな影響を与えている。

萩焼

茶人たちの間で「一楽、二萩、三唐津」と呼ばれ、愛でられてきた萩焼。茶道具として親しまれることが多く、形や装飾が素朴で、絵付が少ない。長年使い続けることで茶が浸透し、茶碗の色合いが変化する「七化け」が特徴。

美濃焼

美濃国(現在の岐阜県)の東部地域で生産されてきた陶磁器の総称。その時代に合せて新しく釉薬を開発し、技術を築いてさまざまな姿形、色彩のやきものを誕生させてきた。「美濃焼とはこれ」とひとつを示さず、さまざまな技法を持つ。

九谷焼

多色の絵が描かれる上絵付が持ち味の、石川県加賀地方で生産される陶磁器。窯ごとに独自の画風がある。明治時代にかけて登場した金襴手という技法が「ジャパンクタニ」の名で世界的にも有名に。

おわりに

「やきもの」といっても産地や素材によって、さまざまな特徴があり、まさに千差万別。

その個性を知れば、お茶の道具選びももっと楽しく、もっと自分に合うものを見つけやすくなるのではないでしょうか。すてきなお茶時間のために、ぜひやきものにも注目してみてください。

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編集=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。