京都の人気店に聞いた!魚料理と日本茶のペアリングがうまくて感動

お菓子と日本茶の相性はよく聞きますが、実は魚とも合うんです! 和食のメインディッシュといえる魚料理と、私たちが飲み慣れている日本茶。日本人が好む2つの味わいの新たな相性を探ってみました。魚料理とお茶のペアリングをしてくれたのは、京都・下京区にある人気店「ロリマー京都」店長の井上誠さん。さあ、どんな味の“出合い”が登場するのでしょうか。

魚料理と合う日本茶って?
井上誠さん

◉ 教えてくれる人
ロリマー京都 店長 井上誠さん

「たとえば、アボカドを使ったお寿司のカリフォルニアロールは、僕らからみたら洋食のようなものですが、海外の人からみたら、間違いなくwashokuですよね。そういう感覚の味を提供したいと思っています」と井上さん。その自由な発想を支えるのが、かつおと昆布で丁寧にだしを引く、魚の下ごしらえをきちんとするといった日本料理の基本。そしてもう一つがお茶。日本の食文化を育みあってきた日本茶こそ、魚料理をよりおいしくしてくれるのだという。

魚と日本茶をこよなく愛する井上さんが考えるペアリングって?

「ロリマー京都」は、ニューヨーク・ブルックリンにある「OKONOMI」の姉妹店。本店は、「世界から見た和食=washoku」をコンセプトに、一汁三菜の和食をベースにして、主に日本の朝ごはんの魅力を現地で伝える人気店ですが、その新たなる展開の一つが、ロリマー京都です。

「ある意味、里帰りといえるかもしれませんね(笑)。日本人がとらえる和食とは少し違って、海外の人たちからみた和食とはどういうものか? を表現したいと思っています。もちろん、そこにおいしい日本茶の存在は欠かせません」と話すのは店長の井上誠さんです。

井上さんは京都生まれ、京都育ち。小さい頃から、いつも家にはお茶がたっぷりと用意されていたそう。

「我が家のお茶は京番茶でしたが、母がやかんでたっぷり煮出してくれて、学校から帰ったときとか、食事のときとか、朝昼晩、よく飲んでいました。 “お茶好きな子ども”でしたね」

お茶好きは今も変わらずという井上さん。朝の仕込みの後や夕刻に仕事が一段落したときに、急須でお茶を淹れてゆっくり楽しむそうです。

井上誠さん
白いカウンターを中心とした明るく、洗練された雰囲気の店内で仕込み中の井上さん。

舞鶴直送の新鮮魚介を中心に、たっぷりの野菜とともに井上さんが組み立てるメニューはとてもヘルシー。ちょっと珍しいのが、魚の仕込み法です。なんとフルーツやハーブをふんだんに使って、おろした魚を塩水や醤油とともに漬け込むのです。さらに、刺身にオレンジやライムを挟んだり、玄米茶で魚の切り身を包んで香ばしく焼くことも……! 確かにこれまでの発想ではなかなかたどり着けない新しいwashokuの世界が広がります。

「魚には独特の風味や匂い、クセがありますが、それらをプラス方向に変える力がお茶にはあります。双方の持ち味を活かしながら、さらなる旨みや魅力を引き出したいと思います」

玉露、煎茶、玄米茶、ほうじ茶など、お茶にはそれぞれ個性があります。井上さんがその特長をうまく組合せたペアリングは、なかなか個性的。その発想のもとは「自由に楽しむこと」だといいます。

「ご家庭で楽しむときは、皆さんの自由な感覚やその日の気分を大切にして、あまり理屈にとらわれず、いろいろな味の出合いを探ってみてほしいです。食事中におかずに合せてお茶をいろいろ変える“おうちでお茶のペアリング”もぜひ楽しんでみてください。コツは急須で丁寧にお茶を淹れること。これだけでもお茶の新たなおいしさにきっと出合えると思います」

今から、washokuのスペシャリスト・井上さんが提案する、見た目も味もうるわしい、お魚料理とお茶のペアリングをご紹介いただきましょう!

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その1:かきのオイル漬けと煎茶

「個性と個性をあえてぶつけて、エッジが効いた出合いを演出しました」

「個性と個性をあえてぶつけて、エッジが効いた出合いを演出しました」

かきのオイル漬けと煎茶
ジューシーさと濃厚さを併せ持った味わいのかきのオイル漬けは、酒の肴としてもぴったり。オイル漬けは、かきの代わりにイワシなどもよく合う。

新鮮なかきをニンニクで香り付けしながらオリーブオイルでソテーして、ハーブのタラゴンとともにオイル漬けにした一品は、潮の香りが濃厚で、かきのエキスがしっかりと感じられます。オイルに漬けることで、さらにその風味が強くなり、個性的な味わいが生まれてきます。

ペアリングしたのは若蒸しの煎茶。若々しくて青み(青々しさ)の強い煎茶で、こちらもなかなか個性的な味わいです。さらにタラゴンもハーブの中では、力強い香りと青みが特長です。

「かきのオイル漬けと煎茶」は、強い個性の持ち主同士を中和させるのではなく、あえてぶつけてみることで、主役が二人いるような、煎茶の爽やかさが際立つ、緊張感のあるペアリングになったと思います。

濃厚な海の味やオイルを、煎茶がさっぱりと洗い流して、後味もすっきり。食欲も刺激されて、また思わず手が伸びる……、そんなおいしいサイクルが生まれそうですね。

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その2:鯛のカルパッチョと玄米茶

「軽やかな味の重なりに、玄米茶の香ばしさをアクセントとして足しました」

「軽やかな味の重なりに、玄米茶の香ばしさをアクセントとして足しました」

鯛のカルパッチョと玄米茶
見た目も味わいもフレッシュな鯛とズッキーニのカルパッチョ。季節ごとに旬の魚と野菜の組合せをさまざまに楽しんでみて。

生のズッキーニを極薄にスライスして、鯛の薄造りと合せてカルパッチョに仕立てました。味付けはオリーブオイルと塩だけ。白ワインにもよく合う一皿に、玄米茶を組合せてみました。

玄米茶は強すぎず、濃すぎず、軽やかな香りと味わいがあり、同じく軽やかなカルパッチョとそもそもが相性よしです。

ズッキーニはよく火入れをして食べますが、生もまたおいしいんですよ。ほのかな甘みがあって、食感も心地よく、鯛の上品な旨みとよくマッチします。

2つの素材をオリーブオイルがまろやかに包み込んで、そこに、玄米茶の香ばしさをプラス。飲み飽きしないお茶と、淡白なカルパッチョが最高の相性をみせてくれます。今回はズッキーニを使いましたが、春ならば菜の花をサッとボイルしたものや、大根の薄切りなどを合せてもいいですね。

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その3:刺身の盛り合せと玉露

「粋と洗練の見事な融合。何もいうことはなし! の組合せです」

「粋と洗練の見事な融合。何もいうことはなし! の組合せです」

刺身の盛り合わせと玉露
いつも身近な刺身の盛り合せも、柑橘とのペアリングで新鮮な味わいに。甘酸っぱいイチゴなども魚介によく合うのでお試しを。

皮目を焼き、霜降りにした鯛とレモン、アジとライム、そしてホウボウとオレンジを互いに挟んで、見た目も華やかに刺身を盛り付けてみました。

ほのかな柑橘の香りがそれぞれ爽やかに立ちのぼって、魚介をさらに上品な味わいへと導いてくれます。わさび醤油もおいしいのですが、まわりに振った岩塩でいただくのもおすすめです。

刺身に合せたのはふっくらとまろやかな風味の玉露です。じっくりと丁寧に淹れた玉露は、濃厚な旨みが凝縮されて、いつまでも余韻を楽しめる、いわずと知れたお茶の中の王道でしょう。

刺身もまた和食文化の王道といえるもので、互いにとても存在感のある力強い組合せといえます。でも、ただ個性がぶつかるのではなく、和食文化の歴史の中で洗練を極めた味わい同士なので、人があまり手をかけずとも、自ずと見事な融合をみせてくれます。力あるものの凄さを実感するペアリングといえるでしょう。

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その4:一汁三菜とほうじ茶

「多彩な味に絶妙に寄り添う万能選手。ほうじ茶の魅力を堪能してください」

一汁三菜とほうじ茶
ごはんは「八代目義兵衛」のセレクト米、白味噌と麹味噌をブレンドした味噌汁、そして今日のおさかな(焼き魚)、おかず3種がセットになった人気の「一汁三菜」1,760円。

うちの店の定番といえば、一汁三菜のお膳。焼き魚と三種のお惣菜、それにごはんと味噌汁がついて、朝ごはんに人気です。

今日の焼き魚はスズキ。グレープフルーツとローズマリーとともに塩水に漬けた魚をこんがりと焼きました。お惣菜は10種近くの旬の野菜をディルとゆず果汁で漬け込んだオリジナルの浅漬け、牛乳と蜂蜜を混ぜてやわらかく蒸し焼きにした玉子焼き、そして菜の花のおひたしとクリームチーズの3種。このような多彩な味わいに添えるのは、ほうじ茶がベストでしょう。

とくに焼き目が香ばしいスズキとほうじ茶の芳香は素晴らしい相性です。でも、この豊かな芳香が食材を邪魔することはなく、さまざまな料理をまとめあげる力を秘めていながら、一歩引いたような奥ゆかしさがあって、そこが日本人に好まれる所以だと思います。和食だからこそ、真価を発揮するほうじ茶の魅力をじっくり味わいたいものです。

ロリマー京都

ロリマー京都
【住所】京都市下京区橋詰町143
【電話】075-366-5787
【営業時間】平日8:00~16:00、
土日祝7:30~16:00(ともにL.O.15:30)
【定休日】無休

日本茶と魚料理のペアリング、いかがだったでしょうか。意外と思われる組み合わせもあったかもしれませんが、どれもこれもとっても合います! ぜひみなさまもご自宅で試してみてください。

(写真 石川奈都子 / 文 郡麻江)

 

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企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。