絵画鑑賞は、壁にかけられた作品を楽しむものだと思っていませんか?京都では多くの美術館でアートを楽しむことができますが、それだけではありません。寺社の「天井」には、イタリアのシスティーナ礼拝堂顔負けの大迫力の絵画が描かれているので、必見です!
若い女性に人気の正寿院の花の天井、建仁寺、東福寺、大徳寺、南禅寺、相国寺の龍の天井など……。そんな天井画の中でも、今回は、地元編集部がおすすめの、平岡八幡宮の「花の天井画」と、妙心寺の「龍の天井画」の世界へご案内します。天井を見上げてみると、そこには壮大で美しいアートの世界が広がります。京都に来たら、ぜひ訪れてみませんか。
【平岡八幡宮】足利義満が愛した44種の花に秘められたミステリーとは!?
複数の絵を天井に貼り合せた絢爛豪華(けんらんごうか)な「花の天井」のある平岡八幡宮は、今から1210年前に建立されました。その後一度は焼失したものの、将軍・足利義満によって再建。その際、花を愛した義満公らしく、美しい花の絵を天井に描かせたといわれています。その後、江戸時代末期に2人の絵師によって再び極彩色の花が描き直されたとか。
そんな花の絵は全部で44枚。義満公が晩年に愛した花々を散りばめた天井を眺めれば、艶やかな庭園を愛でているような気分に浸れます。
しかし、美しい花々には、秘められたミステリーが。宮司の佐々木俊輔さんによると「菖蒲(しょうぶ)や芥子(けし)、椿、甘草(かんぞう)など、描かれているのは鑑賞花ではなく、すべて薬草なんです。平岡八幡宮や周辺の地域は、古くより薬と深い関わりがあり、それに由来するのではと考えられています。また、隆盛を極めた義満公のさらなる野望が、花と、その描かれた位置に秘められているとの説もあり、眺めるほどに味わい深い天井画です」
天井画から目を移すと、6年前に修復された紅白梅と紅白椿の障壁画、本殿入口に据えられた弁財天など、鮮やかな彩りの飾りがあちこちに。
これらが鑑賞できるのは、春と秋の特別拝観の時期のみ。京都市内から少し足を延ばして、ゆっくりと堪能してみては。
平岡八幡宮
【住所】京都市右京区梅ヶ畑宮ノ口町23
【電話】075-871-2084
【拝観時間】10:00~16:00(最終受付15:30)
秋の特別拝観は9月13日(金)〜12月1日(日)まで。
※10月6・12・13・14日は除く
【拝観料】800円、小学生以下無料(大福茶の接待あり)
【妙心寺】狩野探幽が8年の歳月を経て完成させた荘厳な龍!
圧倒的なスケールを誇る「雲龍図(うんりゅうず)」が収められている妙心寺の法堂。直径12mの円の中心に龍の目が描かれており、どの角度から見ても龍の目が自分を見ているように感じられることから、「八方睨みの龍」とも呼ばれています。
「仏教の守護であり、水を司る龍神を描くことで、当時の人が恐れていた火災から建物を守る意味が込められているといわれています。また、法堂建立の記念として描かれたもので、法堂という法を説く大切な場であるから龍を描いたのでは」と、天井に描かれた経緯を、同寺の津田章彦さんはお話ししてくれました。
雲龍図の作者は、江戸時代の御用絵師であった狩野探幽(かのうたんゆう)。当時の住職から「何百年も何千年も生き続ける龍を描いてほしい」と依頼を受けて取りかかりました。「探幽は座禅をして構想3年。絵筆をとり5年。8年の歳月をかけて完成させました」
探幽は、頭に浮かんだ龍神の姿を描く際、「生」の躍動感を表現するために現存する動物を参考にしたともいわれています。口はワニ、ひげはナマズ、角は鹿、胴は蛇、鱗は鯉、爪は鷹などのもうきん類、そして最後に入れた目は、龍のイメージとは程遠く、優しい目を持つ牛。
禅の悟りから厳しさの中に温かさを見出し、絵にしたためた探幽。そんな思いに心を重ね、天を仰いでみれば、これまでの印象とは違う「雲龍図」に出合えるかもしれません。
妙心寺
【住所】京都市右京区花園妙心寺町1
【電話】075-466-5381
【拝観時間】法堂の拝観は9:10〜16:40の20分間隔
(11〜2月は15:40が最終)
【拝観料】大人700円
【HP】https://www.myoshinji.or.jp
古くから多くの人に愛される2つの天井画をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。京都にはまだまだ多くの天井画が存在します。京都観光の際には、ぜひ寺社の天井を見上げてみてください。
取材・文=岡田有貴/写真=岡森大輔、下村亮人
◎合せて読みたい→ 縁結びに美人祈願!女子旅にオススメの京都最強パワースポット4選
企画・編集=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。