京都の桜名所が華やぐ季節となりました。 足腰に自信がなかったり、 杖や車椅子が必要だったりするシニア世代の人が家族や友達と一緒にお花見できる名所や裏ワザを、介護観光タクシーのベテラン、飯田明史さんに教えてもらいました。美しい桜を存分に観光しましょう!
おすすめ1. 平安神宮
絵画のように美しい、京都の春を象徴する紅枝垂れ桜
平安神宮の神苑は紅枝垂れ桜の随一の名所。これは京都の近衛家伝来の糸桜で、かつて津軽藩主が東北に持ち帰りました。平安神宮創建の明治28年、その子孫を当時の仙台市長が寄贈したため「里帰り桜」とも言われています。
神苑の見学は、南神苑の入口から入り、西神苑→中神苑→東神苑が順路ですが、入口すぐの場所からいきなり十数本もの紅枝垂れ桜で埋め尽くされる桜の園。谷崎潤一郎の『細雪(ささめゆき)』では「夕空にひろがっている紅の雲」と描写されていて、まさに圧倒的な風景です。
また、東神苑の栖鳳池(せいほういけ)の北側も紅枝垂れ桜で縁取られています。池に掛けられた屋根付きの橋「泰平閣(たいへいかく)【橋殿】」には腰掛があるので、栖鳳池の桜の風景をゆっくり眺められます。紅の桜が池に映り込んで夢見心地の世界です。
通常の順路だと、入口から東神苑の出口まで、段差のある距離をかなり歩くことになり、見物をあきらめてしまう方もいるかもしれません。でも車椅子や足が不自由な方は申し出れば、東神苑出口から入場できます。泰平閣に登る段差も、飯田さんによれば「少しの介助でたいていの方は登れます」とのこと。橋を渡らずに行く迂回路も、頼めば通らせてもらえます。ご家族の思い出をひとつ積み重ねてみませんか。
Information
平安神宮
【住所】京都市左京区岡崎西天王町97
【電話】075-761-0221
【時間】本殿・境内6:00~18:00 神苑8:30〜17:30
【神苑拝観料】大人600円 ※障害者手帳の提示により規定料金の半額、介助者1名も半額。
【HP】http://www.heianjingu.or.jp
おすすめ2.二条城
広々とした敷地で、ゆったり桜めぐりができる
徳川家康が京都御所の守護と将軍上洛の際の宿泊所として築城した二条城。二の丸御殿、唐門など桃山時代の遺構を残し、見どころ満載の世界遺産ですが、実は知る人ぞ知る桜の名所でもあります。
通常の見学では行く人が少ない本丸御殿南側には「桜の園」があり「関山(かんざん)」「雨宿(あまやどり)」などの名木が。西側は通路沿いに枝垂れ桜が並び、東南側には桜の並木もあります。「清流園(せいりゅうえん)」の「太閤しだれ桜」は、醍醐寺の古木をクローン技術で増殖したもので、ここも必見です。
また、二条城は多目的トイレがあるほか、砂利道をすいすい行ける電動アシスト付き車椅子の無料貸し出し(予約不可)や、二の丸御殿観覧用に屋内用車椅子も完備されています。随所にベンチや休憩所もあるので、広々とした環境で、休憩しながらゆったりと桜めぐりができておすすめです。
Information
二条城
【住所】京都市中京区二条通堀川西入
二条城町541
【電話】075-841-0096
【時間】8:45~17:00(閉城)
【料金】入城・二の丸御殿1,030円、
入城のみ620円
※70歳以上の京都市民、障害者の方と
介添人1名までは無料。(証明書提示)
【HP】http://nijo-jocastle.city.kyoto.lg.jp
おすすめ3.六角堂
街中で気軽に立ち寄れる桜名所なら、ここ!
四条烏丸からほど近い六角通に面した頂法寺(ちょうほうじ)は「六角堂」の名で親しまれています。聖徳太子の創建とされ、いけばな発祥の地でもあり、華道池坊の家元が代々住職を務めてきた花にゆかりのある寺院です。小ぢんまりとした境内には早咲きの枝垂れ桜が何本もあり、例年3月下旬には咲き揃って、境内をほんのりピンク色に彩ります。なかでも、「御幸桜」は、咲き始めの数日は白く、その後ピンク色に替わる不思議な桜です。
六角堂は京都の中心であることを象徴する「へそ石」でも知られていますが、歩くのが負担になったシニア世代にもぴったりのロケーション。食事や買い物のついでに気軽に「桜の別世界」を味わえます。西側に隣接する10階建てビル「WEST18」には展望エレベーターがあり、満開の桜に包まれる六角堂を上から俯瞰することもできます。
Information
六角堂[頂法寺]
【住所】京都市中京区六角通
東洞院西入堂之前町248
【電話】075-221-2686(池坊総務所)
【時間】6:00~17:00(納経所は8:00~)
※境内自由
【HP】http://www.ikenobo.jp/rokkakudo
おすすめ4.平野神社
まるで、桜の博物館! 由緒ある名桜をたっぷり楽しめる!
江戸時代からの京都の桜名所といえば平野神社。3月中旬、平野神社発祥の枝垂れ桜「魁(さきがけ)」が咲くと京都の花見が始まるといわれてきましたが、そのほかにも「白雲(しらくも)」「鬱金(うこん)」「突羽根(つくばね)」「平野妹背(ひらのいもせ)」「衣笠(きぬがさ)」などの名桜が所狭しとばかりに植えられ、3月中旬から約1ヵ月半、花を競い合います。
平野神社は、平安遷都に際して平城宮の宮中から遷座されてきた格式の高い神社。公家の氏神様であったため、皇族が身分を離れて天皇の臣下となる臣籍降下(しんせきこうか)の際に各家伝来の桜を奉納し、さまざまな桜が集まってきたのだとか。現在はここでしか見られない貴重品種を含め、約60種・400本の桜があります。まさに京都の歴史とともに歩んできた生きた桜の博物館なのです。ちなみに神紋は五弁の桜です。
さて、平野神社の敷地は段差がほぼありません。特に東側の鳥居に車で乗り付ければ、石畳を少し進むだけで、名桜が揃う拝殿(現在は仮拝殿)※のある場所まで行けて、車椅子でも杖でも、疲れずに桜を堪能できるのです。西大路通に面した南西の鳥居に向かっても石畳の道が続き、お花見の時期になると桜茶屋が設けられ、赤もうせんの床几(しょうぎ)に座って、食べたり飲んだりしながら花見を楽しめます。疲れない桜見物のスポットとしてもおすすめの名所です。
Information
平野神社
【住所】京都市北区平野宮本町1
【電話】075-461-4450
【時間】6:00~17:00
※境内自由
【HP】http://www.hiranojinja.com
※江戸時代初期に東福門院が寄進した拝殿は、平成30年9月の台風21号による被害で倒壊。現在は隣に仮の拝殿がおかれ、復興に向けて義援金を受付中。
おすすめ5.雨宝院
空が見えないほど桜で埋め尽くされた圧巻の境内!
雨宝院は、西陣の路地沿いにある真言宗の寺院。「西陣の聖天さん」として親しまれ、今もお参りに立ち寄る地元の人が絶えません。敷地は小さいながら、歓喜天(聖天)、千手観音(重文)、弘法大師、大稲荷大明神など多くを祀り、また染め物がよく染まるという井戸「染殿井」でも知られています。
この境内が実は桜の名木の宝庫。本尊歓喜天を祀る本堂前に複数ある「歓喜桜」、観音堂の両脇の「観音桜」はどちらも仁和寺の御室桜と同じ品種で、白い八重咲の花を咲かせますが、仁和寺と地質が違うので丈高く伸び、満開の時期には境内の空を覆うほどになります。ほかに本堂前には紅枝垂れ桜、井戸前には遅咲きの松月桜、東南角には「御衣黄桜(ぎょいこうざくら)」もあり、咲く時期がずれるため、タイミングがよければ、石畳が花弁で埋まり空も桜で覆われて、一面桜の世界に浸る、感動のひとときを過ごせます。
Information
雨宝院
【住所】京都市上京区智恵光院通
上立売上ル聖天町9-3
【時間】9:00~17:00 ※境内自由
【HP】https://www.uhoin.com
※電話での問合せは不可。
●教えてくれる人
介護観光タクシードライバー
飯田明史さん
京都生まれの京都育ち。輸入車ディーラー会社の取締役を経て、6年前に介護観光タクシー「京都エスコート」を開業。ヘルパーの資格も持ち、タクシー移動だけでなく、車椅子を押しての観光案内や、旅先で家族と一緒に泊まり、入浴介助などにも対応し、家族の負担を減らす旅を支えている。介護観光タクシー「京都エスコート」 電話080-2507-3819 ホームページは「京都エスコート」で検索。
老若男女を問わずに行きやすい、京都の桜の名所をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。今までお花見を諦めていた方も、今年は楽しんでみてください。見頃を迎えた美しい桜たちが歓迎してくれます。
(文・中岡ひろみ)
◎合せて読みたい→ 【予約必須】大人の京都旅で知っておくと自慢できるレストラン4選
企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。