疫病退散!コロナ禍で話題の妖怪・アマビエは京都で見つかった!?

新型コロナウイルスの流行で、不安な思いをされている方が多い今、人々のこころを癒す注目の妖怪・アマビエ。どこか愛らしい姿形 が反響を呼び、多くの商品も生まれていますが、実は京都で「見つかった」のはご存知ですか? 京都で見つかり、つながるアマビエに ついて取材しました。

アマビエ
江戸時代に描かれたという日本でここだけにしかないアマビエの画。『肥後国海中の怪(アマビエの図)』(京都大学附属図書館所蔵)https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000122/explanation/amabie

発信源は京都! アマビエブームの舞台裏は、京都大学附属図書館にあった!

アマビエが全国に知れ渡ったのは、ある一つのツイート(SNS発信の一種)からでした。今年の3月6日、京都大学附属図書館から江戸時代のある瓦版について小さな発信があり、それが、アマビエが載っている瓦版についてでした。

「アマビエについては、弘化(こうか)3年(1846)、肥後国(現在の熊本県)の海に夜ごと光るものが現れたので、地元の役人が様子を見に行ったところ、異様な姿のものがおり、『当年より6ヶ年の間は諸国で豊作が続く。しかし同時に疫病が流行するから、私の姿を描き写した絵を人々に早々に見せよ』と予言して、海に帰っていったという伝説が残っています。このアマビエが、当館が所蔵している江戸時代の瓦版に載っていたのです」(同図書館スタッフ)

瓦版とは今でいえば新聞の号外のような、一枚物の摺り物(木版画)のこと。江戸時代に多くの人にニュースを伝える媒体であると同時に、このアマビエが描かれた瓦版は、疫病の終息を願う庶民にとって「御札」のような役割を果たすこともあったといいます。そして、この瓦版の存在は、「京都大学附属図書館公式ツイッター」から発信され、世に広く知られることになりました。

「当館の公式ツイッターは、基本的に京都大学の関係者に向けて、情報発信を行なうためのものですが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止の為、利用制限を行なうお知らせが増えていました。利用者の方に申し訳ない気持ちもあり、ユーモラスな姿の妖怪の存在を話題にして楽しんで貰えればと考えて、ツイートしました。それからの反響がものすごくて……。一部の研究者や妖怪ファンの間でしか知られていなかったアマビエですが、思わぬきっかけで多くの人に親しんでいただくことになり、うれしい驚きです」

アマビエは次々に拡散されて、どこか可愛げのある姿に多くの人が共感し、寺社でアマビエのお札が授与されたり、モチーフにした様々なグッズが誕生するなど、全国的な人気者になっていきました。

ブームで終わることなく、今も、アマビエは多くの人の心を癒し、元気を与えてくれています。暗いニュースが流れる日も、日本のどこかで、アマビエのユーモラスな姿に力をもらって、笑顔になれる人がきっといるにちがいありません。

京都大学附属図書館から発信された小さな情報が引き起こした出来事は、まさに奇跡といっていいでしょう。

瓦版を読み解こう!

書き下し文
k_書き下し文

肥後国海中江毎夜光物出ル 所之役人行
見るニ づの如之者現ス 私ハ海中ニ住アマビヱト申
者也 當年より六ヶ年之間 諸国豊作也 併
病流行 早々私ヲ写シ人々ニ見セ候得と
申て海中へ入けり 右ハ写シ役人より江戸江
申来ル写也

弘化三年四月中旬

現代語訳
k_現代文

肥後国(現在の熊本県)の海中に、毎夜光るものが出るので、土地の役人が視察に行った。すると図のような者が現れて、「私は、海中に住む“アマビエ”という者である。今年から六年は諸国豊作だ。しかし、病も流行するので、早々に私の姿を写し、人々に見せなさい」と言って、海中へと入っていった。右は写し役人から江戸へ報告した際の写しである。

アマビエの思いを広く繋ぐ、心やさしき和尚さんのチャレンジ!

金剛寺 中村徹信住職

●金剛寺 中村徹信住職
「心のよりどころとなるお寺でありたい」という中村徹信住職。淹れたてのコーヒー、木魚念仏と法話、ワークショップを組合せた「おてらカフェ」や「将棋クラブ」、介護をしている人が集う「介護者カフェ」などを行なっている。「このお寺で人の輪が繋がり、縁に生きていることを感じ、人の和となる場となりたいと思っています」

平安神宮にほど近い場所にある静かな寺院。ここ金剛寺は、東山の地に1602年に開山した浄土宗の寺です。御本尊は行基菩薩が彫ったと伝わる丈六の阿弥陀如来像。山門から入ったところの庭はよく手入れされ、とても美しく心癒されます。

22世住職の中村徹信さんは、旅行会社で30年余り勤務したのち、2005年に浄土宗総本山知恩院にて修行を終えて僧侶になった方。お寺を預かる住職として「たくさんの人の心のよりどころとなるお寺でありたい」とさまざまな活動に取り組んでいます。その一つに、今年の5月下旬から始めたアマビエの護符の授与があります。
「新型コロナウイルスの自粛期間に人が集まることが難しくなり、当寺でも法要や法事が減りました。何かお寺としてできることはないだろうか? と考えていたときに、檀家総代の方から、アマビエの護符を授与してはどうか? という提案を受けたんです」

大人気!!アマビエの護符がこちら!

アマビエ御朱印

護符のアマビエの絵は、中村さんの知人の絵師、深谷冬奇(ふかやふゆき)さんの作品。水墨画のタッチで描かれ、ふんわりとやさしいイメージがあります。たまたま護符を手に入れた人がSNSで発信したところ、大きな反響があり、全国から授与を希望するメールがお寺のホームページに届きました。関東方面の人が多く、送った護符は200枚ほど。関西圏で来寺した人にも100枚ほど授与したそうで、まだまだ希望者は増えているといいます。

「新型コロナウイルスは人から人へ感染するという点では人災かもしれませんが、どんなに注意をしても防ぎきれないという点で、人智を超えた天災ともいえます。京都大学附属図書館に所蔵されているアマビエの瓦版が、護符の代わりとなって江戸時代の人々を癒したと聞いたとき、こんなに文明が進んで、医療が発達した世の中でも、新型コロナウイルスの前には私たちは江戸時代の人と変わらず弱いものなのだと気付きました。不安な日々を癒し、勇気づけてくれる存在のアマビエの護符をつくって、授与することにきっと意味があると考えました」

アマビエの掛け軸
境内にはアマビエのお軸も飾られている。

浄土宗では、“自分がいたらないもの、弱いものである”ことを認めよ、という教えがあるそうです。それを認めるとき、人はほんとうにやさしくなれるのではないでしょうか。

「私たちも自分の弱さを認めて、新たな生き方を模索していく時期にきていると思います。このアマビエの護符が、これからを生きる皆さんの心のよりどころになってくれるように心からお祈りしています」

今後、私たちは「Withコロナの時代」を生きていくことになるでしょう。先の見えない不安な時代に必要なのは、弱者や強者の区別なく、やさしく繋がりの輪の中で生きていくという姿勢なのかもしれません。そのための気付きと勇気を、アマビエはきっと与えてくれるにちがいありません。

金剛寺

金剛寺
【住所】京都市東山区三条通白川橋東入五軒町124
【電話&FAX】 075-771-2442
【HP】https://www.kongoji-kyoto.org/
●アマビエの護符はHPから依頼を。

京都大学附属図書館で見つかった妖怪・アマビエの物語、いかがだったでしょうか。自粛生活の終わりが見えず、こころがしんどくなったり、つらくなったときには、疫病退散させるというアマビエを眺めながら、穏やかな気持ちになってください。

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企画・構成=米村めぐみ
よねむらめぐみ●月刊『茶の間」編集部員。出社したらまずはお茶!仕事中はお茶ばかり飲んでいるといっても過言ではないほど、日本茶が好き。作家ものの湯呑など、うつわあつめが趣味。おいしい茶菓子にも目がありません。