祗園・鴨川・平安神宮。京都人に聞いた、地元で愛される桜の思い出

嵐山や祗園をはじめ、桜の名所がたくさんある京都。全国から訪れる方々が多くいる一方で、地元の方にも親しまれています。家族と歩いた桜並木、賑やかなお花見、ふと見上げた先の美しい桜……。そんな心に残る桜の思い出を、京都で暮らす、町家を守る文化人、庭師、僧侶の3人に伺いました。

 

桜の思い出を語らいながら、おいしいお茶で一服を!

平安神宮
秦めぐみ

京都秦家主宰
秦めぐみさん

京都市生まれ。平成8年から秦家住宅を一般に公開。見学者を受け入れ、その維持・保存に努めている。著書に『京の町家おりおりの季節ごはん』(扶桑社)。

円山公園

「物心つく前から見ていた風景は、 今も昔も変わらない、一番身近に感じる桜です」

円山公園の枝垂れ桜
【住所】京都市東山区円山町【電話】(公財)京都市都市緑化協会075-561-1350【HP】https://kyoto-maruyama-park.jp

江戸時代から12代にわたって、薬種業を営んできた歴史ある商家に生まれた秦めぐみさん。京町家を守り受け継ぎ、季節ごとの暮らしの知恵を大切にしてきた秦さんが、桜といえば真っ先に思い出すのが、円山公園の枝垂れ桜です。

「祇園祭の山町(太子山)に根を下ろす秦家では、人生の節目や、月初めのお一日(ついたち)に、氏神さんの八坂神社にお詣りしてきました。お詣りを終えると、その足で神社の裏手にある円山公園を散策するのが、物心つく前からお決まりのコース」と話す秦さん。

円山公園の枝垂れ桜は、樹齢九十年を超える名桜として知られていますが、木を取り囲むように積まれた石組も昔のまま変わらないといいます。

「見れば家族とのときどきの思い出が浮かんでくる。私にとって最も身近で愛おしい、京都の桜ですね」 

小川勝章さん

植治 次期12代
小川勝章さん

京都市生まれ。高校入学時より父である十一代小川治兵衞に師事。大学卒業後、「植治」において作庭に専念する。著書に『植治 次期十二代小川勝章と巡る 技と美の庭 京都・滋賀』(京都新聞出版センター)。

平安神宮

「雨上がりのやわらかな陽射しに、 桜の花がうれしそうに揺れていました」

平安神宮
【住所】京都市左京区岡崎西天王町97【電話】075-761-0221【HP】http://www.heianjingu.or.jp

雨上がりの桜が忘れられないと話すのは、作庭家の小川勝章さん。おうちは代々「植治」小川治兵衞を継承し、歴代で数々の庭園を手がけてきました。

「幼稚園に通っていた頃、父について平安神宮に行きました。急に大粒の雨が降り始め、父に手を引かれ、泰平閣(橋殿)に急ぎ、駆け込みました。しばらくの間、雨はまるでの水面で踊るかのように降っていました。雨が止むと、やわらかな陽射しが包み込み、桜が喜んでいるように見えました」

そのときの雨上がりに映える庭園やお花、漂う香りや気配。初めて知ったその情景に、心が踊ったといいます。

「以来、御神苑の桜を目にするたびに幼い頃を思い起こします」

梶田真章さん

法然院貫主
梶田真章さん

1984年、法然院貫主に就任。「共生堂(ともいきどう)=法然院森のセンター」を拠点とした自然環境に親しむ活動や、寺を会場としたコンサートや展覧会の開催など、新しい寺のあり方を追求。

賀茂川

「毎年お釈迦さまの誕生日に比叡山を拝み、 ご縁に感謝をしています」

加茂街道
加茂街道【住所】京都市北区小山上内河原町

法然院の貫主、梶田真章さんは、賀茂川の川縁を訪れ、満開の桜と比叡山を拝んでいると話します。

「毎年、お釈迦さまの誕生日を祝う4月8日の灌佛会(花まつり)の頃ですね。お釈迦さまが仏教を開かれ、日本では比叡山が、仏教を実践する聖地となりました。私が預からせていただいている法然院は、比叡山で修行された法然上人ゆかりの寺。美しい桜の先に、遠く望む比叡山を見ると、そのご縁に感謝の気持ちがあふれます」

多くの縁に導かれて今がある。さまざまな思いを呼び起こす桜が、今年も花を咲かせます。

京都ならではのエピソードが飛び出した、それぞれの桜の思い出話。

皆様は桜を見るとどんな記憶が呼び起こされますか?

今年も満開の桜の下で、楽しい思い出がたくさんできるといいですね。

planmake_hagiri

取材・文=羽切友希
はぎりゆき●月刊『茶の間』編集部員。ちびまる子ちゃんが好きな静岡県出身。小さい頃は茶畑の近くで育ち、茶畑を駆け抜けたのはよき思い出。お茶はやっぱり渋めが好き。